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最強って何かね ―――――――――――― ☢ CAUTION!! ☢ ―――――――――――― 以下の御作品を愛読されている方は先に進むことをご遠慮ください。 武装食堂 キズナのキセキ 深み填りと這上姫 場合によっては意図されていない、悪い方向に読み取られる可能性があるため、閲覧をご遠慮頂くものです。 残虐・卑猥な行為などが理由ではありません。 強いて言うならばコタマがマシロに腹パンされる程度の残虐さです。 ネタバレを含む場合があります。 また神姫や固有名称を(無断で)お借りしています。 登場はしません。 尚、TVアニメ武装神姫 第11話「今夜決定!最強神姫は誰だ!?」のネタバレを少し含んでいます。 茶室に集まった私とメル、コタマ姉さん、マシロ姉さんでアニメの次回予告まで見終えて、コタマ姉さんが大きなあくびをした時だった。 テレビを消したメルは唐突にこう問うた。 「でさ。実際はどうなのさマシロ姉。今の最強の神姫って誰なの?」 ◆――――◆ 「言うまでもないでしょう。一番は公式戦で優勝経験のあるアーンヴァル型アルテミスかストラーフ型のビクトリア(ヴィクトリア?)。二番は――名前は忘れましたが、あの世界二位(笑)のエウクランテでよいのではないですか」 「マシロ姉さんが(笑)とか使わないでください。キャラが崩れます」 「そーじゃなくてさ。ほら、マシロ姉だってそのアルテミスとほとんど互角だったでしょ。非公式戦も含めて、誰が最強かってこと」 メルの言うバトルというのは、あれはマシロ姉さんが私たちを特別に、対アルテミスさん戦に招待してくれた時だった。 強い神姫の非公開でないバトルの観客席はいつも早い者勝ちの超満員で、初めて生で見た武装神姫の頂点クラスのバトルは思い出しただけでも武者震いしてしまう。 アルテミスさんの十八番『先々の閃』を真っ向から迎え撃ったマシロ姉さんの技はなんとビックリ! 私の『ブレードジェット』を使った突進だった。 といっても二人の激突は文字通り目にも留まらぬ速さで、それと知っていなかったら「離れてた二人が消えたと思ったら中間地点から衝撃波が出た」ようにしか見えなかったのだろうけど。 あの時のバトルは大接戦で、早い段階で十二の騎士のうち半数くらいを落とされていたマシロ姉さんが惜しくも負けてしまったけど、身近にいる信じられないくらい強い神姫の一歩も譲らない戦いに私は大きな歓声と拍手を送ったのだった。 「マシロ姉だけじゃなくて他の『デウス・エクス・マキナ』とか、世の中には隠れた強い神姫がたくさんいるんでしょ。ぜ~んぶひっくるめて、誰が最強かってこと」 「私も興味あります。実はマシロ姉さん、最終的にアルテミスさんに勝ち越してたりしてないんですか」 「あなた達は最強の神姫をそう簡単に決められると……まぁ、いいでしょう。簡単に『最強』という言葉を使わないよう知っておかねばなりません。コタマも良い機会です。聞いていきなさい」 眠い目をこすりながら立ち去ろうとしたコタマ姉さんの尻尾を、マシロ姉さんはむんずと掴んだ。 ◆――――◆ 「まずは――そうですね。エル殿とメル殿は勘違いをしているようですが、『デウス・エクス・マキナ』という括りはあなた方が想像しているよりずっと意味の無い、名ばかりのものです」 「だろうね」とコタマ姉さんは知った風にうなずいた。 「『デウス・エクス・マキナ』がまとまりのある集団だったら、マシロも少しは大人しくなってたろうもん」 無視したマシロ姉さんは続けた。 「そもそも『デウス・エクス・マキナ』とは、『京都六華仙』に対抗意識を燃やした誰かが、修羅の国でも似たような集団を作ろうと勝手に神姫を選んだだけ……らしいに過ぎません」 「らしい? その誰かって、『デウス・エクス・マキナ』の中の誰かじゃないの?」 メルの問に対してマシロ姉さんは首を横に振った。 「誰なのかは分かっていませんが、その線は面子を見る限り薄いでしょう。【神様が暇つぶしに作った】、【マオチャオネットワークによって生み出された】などという噂すらあるくらいですから。私もいつの間にか一人に数えられていて首を捻ったくらいです。当人への告知すら未だになく、噂だけが独り歩きして実体化を果たしてしまったような状態です。まあ、私が知る限り実力だけは十分伴った神姫が選ばれているので、見る目のない者が作った、というわけではなさそうですが」 「マシロ姉さんを含めて五人いるんですよね」 「ええ。初めに選ばれていたのは四人でしたが。私の他に、 『清水研究室 室長兼第一デスク長』ゴクラク。 『大魔法少女』アリベ。 そして後に追加で選ばれたのが『火葬』ハルヴァヤ。あと一人は知りません」 「知りませんってアンタ、そんなてきとーでいいの?」 「誰も知らないのだから仕方がないでしょう。もしかすると噂の【神様】とやらかもしれませんが」 「なんか、本当にいいかげんだね。『京都六華仙』に対抗する以前のレベルだよ。この前の【貧乳の乱】の時に遊びに来てた牡丹が六華仙の一人なんだよね。京都市だとちゃんと取りまとめ役やってるんだってよ」 「それただのヤ◯ザじゃん」というコタマ姉さんのツッコミには「修羅の国のコタマ姉さんがそれを言いますか」と適切に返した。 「いえエル殿、コタマはこれでも役に立っているのですよ。武装神姫のバトルとは端的に言えば強弱上下を決めるものですから、違法改造神姫であろうと何であろうと粛清できる実力者が目を光らせておかなければ、必ずといっていいほど犯罪に手を染める愚者が出て来るのです」 「修羅の国のマシロ姉さんがそれを言いますか」と再び適切な返しを挟んだのだけれど、マシロ姉さんには聞こえなかったらしく、話は続いた。 「私は竹櫛家を守ることのみが使命ですし、ゴクラクは水面下で怪しげな動きをしていて、ハルヴァヤは私たちのレベルから身を引いてしまっています。勿論、正体不明の神姫は言うに及ばずです。なのでこの地域が比較的安定しているのは、誰彼構わず挑まれた勝負に負けない、つまりパワーバランサーのような役割を持つコタマと、大規模かつ熱狂的なファンクラブを持つアリベの二人が表立って動いているからなのです」 「なるほど。だからこの地域では悪事が最小限に留まっているんですね」 「「「修羅の国のアルトレーネがそれを言うな」」」 三人からの一斉攻撃を受けた。 言われてみれば第n次戦乙女戦争とか名物化してるけど、私一人が悪いわけじゃないのに……。 「てことは、真面目に戦ってるアタシが実質的な統治者ってわけ? ウワハハハ、苦しゅうないぜ。オマエら頭が高いんじゃねーか?」 「タマちゃんの背が低すぎるので見下ろす形になっちゃうんです」 「誰がタマちゃんかコラァ!」 私に飛びかかってきたコタマ姉さんはしかし、空中でマシロ姉さんに尻尾を掴まれて体の前面を床に打ち付けた。ビターン! という感じで。 「にゃにしやかんたてめへ!」 鼻に深刻なダメージを負ったらしく手で押さえながら涙目になったコタマ姉さんを、マシロ姉さんは華麗に無視した。 「さて、ここで話を元に戻しましょう。真に最強の神姫とは誰か、という話でしたが残念ながら現状では特定することは不可能です。候補者をあらゆる場所から集めて天文学的数字の回数だけバトルを行ったところで優勝者は決まりません」 「死ねやぁ!」 コタマ姉さんは鼻を押さえたままドロップキックをはなった! しかしマシロ姉さんはこうげきをかわした! コタマ姉さんは再び床に落下してダメージをうけた! 「そうなってしまった原因はコタマ、あなたにあるのです」 築地のマグロのようになったコタマ姉さんを指さして断言するマシロ姉さん。 なんとなくだが、強い神姫になるためには多少の事には動じず無視できる肝っ玉CSCが必要不可欠であるような気がした。 ◆――――◆ コタマ姉さんが落ち着いてから、マシロ姉さんは改めて言い直した。 「コタマ、あなたが矛盾を作ってしまったせいで最強の神姫を決めることができないのです」 「意味が分からん。アタシが何したって? いつ、どこで、なにを」 「以前あなたは妹君と、他人のトレーニングに付き合ってやったと言っていましたね」 「んん……? ああ思い出した。ミスティのことか」 「誰? 聞いたことあるようなないような名前だけど。コタマ姉、何やらかしたの?」 「なんでやらかした前提で話してんだよ。むしろやらかされた側だっての。アタシがまだハーモニーグレイスだった時にさ、『狂乱の聖女』っていう悪者神姫がいて、ソイツを始末する旅か武者修行か何かに出てたミスティがアタシの噂を聞いて『狂乱の聖女』じゃないかって確認に来たんだ。武装が似てたらしい。んで、アタシは無敵の『ドールマスター』様だってバトルで教えてやったら、次は『狂乱の聖女』を倒すために秘密のトレーニングをするから同じハーモニーグレイスで似た武装のアタシに仮想敵になれ、って話を持ちかけられたってワケ。他にも大勢の連中がミスティの練習に付き合ってて……鉄子ちゃんもどーしてわざわざ付き合ってやるかねえ」 「コタマ姉さんが仮想敵って……その『狂乱の聖女』さん? よっぽど強い神姫なんですね」 「それが腹立たしい話でさー。だったらアタシが直接ソイツを始末してやるって乗ってやったのに――いやまあ同じハーモニーグレイスで強いヤツってんなら上下を決めておきたかったってのもあったけど――ミスティのマスターがアタシじゃ勝てないとか言いだしたんだ。筐体の中でヌクヌク温室バトルやってるヌルい神姫じゃ勝てない、ってさ。よりにもよってシスターの善意を断るどころか、『ドールマスター』をふやけた煎餅扱いだぜ? 信じられるか?」 「信じられませんね」と言ったのは意外なことにマシロ姉さんだった。 まさか調子に乗ったコタマ姉さんに同調するなんて、熱でもあるんじゃ……と思ってマシロ姉さんの顔を覗きこんでみると、風邪どころか眉間にしわをよせてコタマ姉さんを親の敵か何かのように睨んでいた。 透き通ったエメラルド色で綺麗だったはずの瞳がドス黒く変色していた。 「まったく信じられませんコタマ。妹君を守る立場にありながら、自分より強いと言われた神姫を――よりにもよって罪を犯した神姫を見逃した?」 「いや、見逃したっていうか、その時点じゃ居場所すら分かってなかったらしくて……何よ、なんでそんなに睨むのさ」 「居場所が分からなければ突き止めればいいだけの話でしょうが。妹君が何処でアルバイトをしているか知らないわけでもあるまいに。答えなさいコタマ、何故その時点で『狂乱の聖女』とやらを始末しなかった。赤の他人のトレーニングに付き合ったことで僅かでも妹君はその犯罪者と繋がりを持つことになってしまった。つまり危険に晒したということだ。仮に本当にコタマの手に余る相手であろうとも私ならばどうとでもなる。しかしあなたは何もしなかった。妹君を危険に晒したまま! 答えろコタマ! どうして何も行動を起こさなかった!」 床に拳が強く叩きつけられ、茶室全体が揺れた。 部屋の空気は凍りついたように冷たく恐ろしくなっていた。 「だ、だだだって……その……あっちにも、じ、事情があったし……た、ただの他人が手を出したら……」 私とメルはお互いに抱きつきかばい合いながら震えるしかなかった。 コタマ姉さんが怯えるほどの殺気。 レラカムイの体はもうとっくに降参の姿勢で、頭の大きな耳と長い尻尾が垂れ下がっている。 マシロ姉さんが両手をゆっくりと肩の高さに上げた。 コタマ姉さんが殺される。 制止に入りたくても体が怯えきって動いてくれない。 そして怒れるクーフランの掌は五指を開いたまま上に向けられ――。 「それで正解です。他所様のストーリーを崩してはなりません」 アメリカンジョークでも言うかのように肩を竦めたマシロ姉さんは殺気を霧散させた。 緊張が解けた瞬間、武装した私たち三人が一斉にマシロ姉さんに襲いかかったのは言うまでもない。 ◆――――◆ 「寿命が縮まった……五年分くらい」 「私もです……後でマスター経由で鉄子さんにチンコロします。絶対します」 「許してください、少々やりすぎたのは反省しています。昨日見たドラマの刑事役がなかなか堂に入った演技をしていまして、それが頭にあったものでついつい。お詫びに後でとっておきのヂェリーをご馳走しますから」 「ヂェリーごときで許せるかボケ」とコタマ姉さんは言いはしたけれど、声には全然力が入っていなかった。 私とメルの寿命が五年縮んだとしたら、殺気を直接当てられたコタマ姉さんの寿命はもって数ヶ月レベルなんだろう。 さっき自分で言ってた通りの『ドールマスター(ふやけた煎餅Ver.)』だ。 そんな私たちを見て悪びれるどころか自分の演技力に満足したらしいマシロ姉さんは、「それはさておき」と私たちの殺気を軽く受け流した。 「コタマの言った通り、他人のストーリーに口を挟んではいけません。というより、口出しできない、と言い表したほうが正しいのは分かりますね。仮にコタマがその『狂乱の聖女』とやらを倒してしまったなら話が余計にややこしくなり、妹君は非難される立場に立たされるでしょう。他にも――」 マシロ姉さんはコタマ姉さん、メル、私の順に見回した。 「あなた達とハナコ殿、そして『京都六華仙』の一人は【貧乳の乱】に参加したそうですね」 「『参加』? 今オマエ『参加』っつったか? それはアタシが好き好んで加わったみたいなニュアンスか?」 メルは静かに私の側から離れてコタマ姉さん側についた。 けれどコタマ姉さんは「アイネスはアニメじゃ谷間があっただろうがこのクソ」とメルを突き返してきた。 ああ哀れなりレラカムイ。 せめてほんの数ミリでも私の胸を分けてあげることができたら。 「さらにコタマは妹君の大学で他の学生に自分勝手な因縁を付けて、メル殿を巻き込んでの勝負の最中ではないですか」 「当たり前だ。『双姫主』だか何だか知らねーけど、鉄子ちゃんのことを『鉄子』って呼び捨てで表記しやがったんだ。鉄子ちゃんのことを呼び捨てしてもいいのはアタシと竹櫛家の連中だけだ。もう修正されてるけどさ」 プンスカ怒りながらコタマ姉さんはそう言った。 この時も鉄子さんは巻き込まれているようだけど、相手が危険じゃなければマシロ姉さん的には問題はないらしく(コタマ姉さんにイチャモン付けられた相手の方は迷惑この上ないだろうけど)、再びご自慢の演技力を発揮しようとはしなかった。 「以上で三つ、例を挙げました。共通点は『コタマが関わっている』ことです。これが矛盾を生じさせてしまっているのです」 「矛盾? 何がですか?」 「先に言ったでしょう。コタマが矛盾点となっていると」 「いえ、ですからその前に……」 「何の話だったっけ?」とメルが私の言いたいことを言ってくれた。 「最強の神姫は誰かと聞いたのはあなたでしょう。そして結論を出すことが不可能であることと、その理由がコタマが矛盾を発生させたためであること。具体例を挙げて理解しやすいよう説明していたのに根本を忘れるとは何事ですか」 「「「誰のせいだ」」」 ◆――――◆ 「アタシが矛盾点? 意味わからん」 「では順を追って説明しましょう」 もうアニメを見終えてから随分と時間が過ぎていて、そろそろ朝日が昇ってくる時間になる。 怖がらせられたり暴れたりしたせいで眠気は吹っ飛んでしまっているけど、重度の疲労が重くのしかかってきている。 メルもコタマ姉さんも顔を見れば私と同じく疲れているようで、マシロ姉さんだけがすまし顔だった。 「まず『狂乱の聖女』の件。コタマはトレーニングに付き合ったと言いましたが、その場で一度でも敗北しましたか?」 「まさか。『FTD3』を使うまでもなかった。しかもそんときゃまだアタシはハーモニーグレイスだったし、今のレラカムイの体ならファーストかセカンドのどっちか片方でも十分だろうね。ま、あっちも修行で当然レベルアップしてるだろうけどさ」 「つまり『狂乱の聖女』は、そのレベルでトレーニングや専用対策を行うことで対応できる神姫ということになりますね。では次に【貧乳の乱】」 コタマ姉さんの大きな耳がピクッと動いた。 ハーモニーグレイスの胸が大きかった分が、今の平坦な胸に対するコンプレックスを加速させているのだろう。 「この一件が最大の問題です。エルメル姉妹も戦闘には加わったようですが、集団 対 集団の中で大きな戦果を上げたのはコタマ、ハナコ殿、そして『京都六華仙』が一人、『遊びの達人』だったそうではないですか」 「それが何さ」 「『京都六華仙』とは私を含む『デウス・エクス・マキナ』の元になった存在であり、京都市の頂点なのです。通名が『遊びの達人』ならば読んで字の如く、純粋にお遊びに興じただけかもしれませんが、なぜコタマ如きに肩を並べているのですか。『京都六華仙』ならば事のついでにコタマにも灸を据えるくらいの気概を見せて欲しいものです」 「レラカムイパンチ!」 コタマ姉さんの短い右腕から繰り出されたストレートはしかし、マシロ姉さんにあっさりはたかれた。 「最後に目下進行中の、コタマが一方的に喧嘩を売った勝負。『双姫主』なる称号を持つ相手だそうですが、妹君にこれ以上恥をかかせないためにも当然、勝つのでしょうね?」 「知らんよ。作者に訊け」 「はぁ……」とマシロ姉さんはこれ見よがしにため息をついた。 「情けない。ここで『作者のストーリーなんざ知ったことか。楽勝だ』くらいの事を言えないのですか」 「オマエ、それさっき自分で言ってたことと矛盾するじゃねえか。他人のストーリーに口を挟むなっつったのを忘れたか、この健忘症め」 「あ、『矛盾』」 メルがそう呟いた時、マシロ姉さんは我が意を得たりとばかりに人差し指を立てた。 「その通り、矛盾しているのです。コタマは私たちの地域におけるパワーバランサーでありながら、勝つか負けるかフタを開けてみなければ分からない状況にあります。メル殿はともかくとして、妹君はなぜコタマより確実に強い私に声をかけて下さらなかったのやら」 「なんだ、一緒に遊びたかったのなら素直にそう言えばよかったのに。この恥ずかしがり屋さんめ」 「クーフランパンチ!」 並のスペックじゃないマシロ姉さんの右ストレートはコタマ姉さんの防御を軽く突き破って、みぞおちに食い込んだ。 口から形容し難いものを吐き出したコタマ姉さんは前のめりに倒れ、再び築地のマグロになってしまった。 安らかな眠りについたコタマ姉さんのことを意に介さず、マシロ姉さんは話を続けた。 私は竹櫛家が恐ろしい。 「他にも地理的な矛盾なども数えきれないほどあるのですが、そこには目を瞑りましょう。修羅の国、京都、北は北海道から南は沖縄までお構いなく、パワーバランスが滅茶苦茶になってしまっているのです。それもこれもすべてコタマのせいで。よってメル殿の『最強の神姫は誰か』という問に対しての答えを出すことはできません。ご理解頂けたでしょうか」 「あー……うん、理解したよ」 メルの目はうつ伏せに倒れて……もとい眠っているコタマ姉さんに注がれている。 パワーバランサーをパンチ一発で黙らせるマシロ姉の存在こそ最大の矛盾じゃない? と言ってコタマ姉さんの二の舞にはなりたくないのだろう。 「それは何よりです。説明した甲斐があったというもの――おや、もうこんな時間でしたか。話が長くなってしまいましたね。ではこれにて解散としましょう。約束のとっておきのヂェリーは次の機会にお渡しします。では失礼」 立ち上がったマシロ姉さんはコタマ姉さんの尻尾をつかみ、ズルズルと引きずったまま茶室から去っていった。 ポツンと残された私とメル。 「ねえ、エル姉」 平坦な声でメルが問うた。 「結局のところさ、最強の神姫って誰?」 私に聞かれても困る。 けれど……。 「とりあえずマシロ姉さんってことにしておきませんか? それで少しは夢見も良くなると思います」 「そだね。そうしとこう」 なんだかよく分からなかったけれど、一つだけ確かなことを言えるようになった。 『最強』という言葉を気安く使ってはならない。 『15cm程度の死闘』の時事ネタ話の中で初めて事前に作文しました。 などという事はどうでもよくて、アニメの「今夜決定!最強神姫は誰だ!?」なる予告を見て、修羅の国視点で考えてみました。 もうちょっと条件を絞ると、 1.『デウス・エクス・マキナ』は、ばるかんさんの『京都六華仙』から発想をパク・・・お借りしている。すなわち強さはだいたい同等。 2.トミすけさんの『狂乱の聖女』対策内で多作品が同時にリンクしているため、最良の基準点になると期待する(という願望)。 3.主人公補正、ストーリー補正、愛の力補正、脇役補正、かませ犬補正、死亡フラグ補正 etc.・・・それら一切を排除。例えば、マシロはコタマに絶対負けない、コタマはエルメル姉妹に絶対負けない、Lv.100ミュウツーはLv.1キャタピーに絶対負けない、といった感じ。 4.他所様だからといって依怙贔屓しない(これ一番重要)。有名神姫のミスティを相手取ってもタマちゃんは意地でも勝つ。 温かい缶コーヒーを飲みつつ、これらの条件下で深く吟味した結果・・・結論を出すのは不可能ということが分かりました。 唯一の架け橋であるタマちゃんの存在が逆に、どうしても邪魔になってしまうのです。 『ドールマスター』コタマを扱い頂いた作品は4つ。 そのうち、ALCさんのエウクランテ型エニはコタマと衝突する前に戦乙女の群れに飲み込まれてしまったため、コタマ本人がちょびっとでも関わったのは実質3作品。 3作品くらいならなんとか順位を決められるんじゃないか。そう思い上がることもせずに、あくまで修羅の国に基準を置いて1つずつブロックを積み上げていったのですが、積み上げクレーン役のコタマが矛盾を抱えていてはどうしようもありません。 また、『15cm程度の死闘』という異分子を除けばどうか? は自分の存在意義が無くなるので却下(旧掲示板を開く限り不可能だと見られますが)。 まことに遺憾なことです。 もう残す手段は、彗星の如く表れた天才がスパパッとすべてのストーリーをまとめ上げ、頂点を決めてくれることに期待する他ありません。 暫定的かつ勝手に最強となってしまったクーフラン型『ナイツ・オブ・ラウンド』マシロの座を奪う神姫の登場にも期待したいところです。 ただし違法な手段で這い寄ろうとする神姫相手には、にゃーの怨念が取り憑いたマシロがなりふり構わず殺しにかかります。 それもこれも、ここまで読んで頂けた方が一人でもいらっしゃればの話ですが・・・。 ところでアニメの感想ですが、ヴァローナを愛でたい。 思い出したように出てきたハムスターもいいけどヴァローナを愛でたい。 胸が若干盛られてたような気がしたけど、それでもいいからヴァローナを愛でたい。 15cm程度の死闘トップへ
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SHINKI/NEAR TO YOU Phase01-2 シュンにとってゼリスは初めての神姫だった。 もちろん神姫のオーナーになっていなくても、世間はまさに神姫ブーム。 興味の有無に関わらず情報は入ってくるし、ちょっと興味を持って調べればそれこそ山のように時事、伝聞があふれてくる。むしろ多種多様な情報を取捨選択する方が大変なくらいだ。 少なくともシュンたち今どきのティーンエイジャーにとって神姫とはそれくらい身近な存在だったし、すでに神姫を持ってる友人もクラスに何人もいる。 だからシュンも漠然と「神姫ってこんなんだろうなぁ」くらいのイメージは持っていた。 しかし、実際に神姫の――ゼリスのオーナーになってそうした想像はもろくも崩れ去った。 少なくとも彼女にはそうした一般的な価値観や想像は当てはまらない、その事を彼はゼリスと出会ってからのこの一週間というもの、痛感させられていた。 「ごめ~ん、待った?」 考え込むシュンの思考をふいにさえぎる能天気に明るい声。 どうやら待ち人がようやく現れたらしい。 やれやれと頭を掻きつつ、嫌味のひとつでも言ってやろうかと顔を上げたところで彼の動きはハタと止まった。 「……どうかしたの?」 目の前にはシュンの幼馴染である伊吹舞(イブキ マイ)が立っていた。 今日の彼女はいつも見慣れた学校の制服姿ではなく、オシャレな私服姿だ。 見ればうっすらとメイクもしているし、髪も普段より念入りにセットされているみたいでさりげなくバレッタで止めたりしている。 なんというか……気合が入っていた。 「ふふん、どう?」 そんなシュンの様子に気がついたのか、伊吹はその場でくるりとターンするとポーズを決め、いたずらっぽい視線で彼を見つめ返してきた。悔しいがそうした仕草がばっちり決まってる。 「……あれだな。孫にも衣装ってヤツ」 「あ~、何それすっごい淡白な反応。少しは素直に褒めてくれてもいいんじゃない、シュっちゃん?」 「……その国籍不詳系のあだ名は、いい加減やめろ」 「もう~、せっかくの休日なんだからもっと明るく行こうよ! 明るくネッ?」 「……とか言いつつ関節取るな。つーかイタタタタ……痛いっつの」 「別にぃ? ただスキンシップしてる、だ・け・だ・よ?」 そう顔では笑いながら、伊吹はしっかり間接技を決めてくる。結構本気で抵抗しながらシュンは思う。 こいつはいつもこうだ。子供の頃からこの変にアクティヴな伊吹に何度泣かされたことか知れない。さっきの私服姿を見たときは新鮮味を覚えたものだが、やっぱり全然変わってない。 というか何だか怒ってないか? 助けを求めシュンは視線を巡らせる。その目とベンチに座るゼリスの視線とが合った。 ゼリスはしばし見詰め返した後、興味なしといった感じで再び本に視線を落とした。 無視かよ。 久しぶりにマジで落とされるかも知れない。 覚悟を決めるシュンに、救いの手――いや救いの声は意外なところから出てきた。 「むぎゅう……苦しいの~っ」 ハッと気付いて伊吹が手をパッと離す。 開放された拍子に尻餅をついたジーンズの尻を払い、シュンはこの場の救い主に声を掛けた。 「助かったよ。サンキュー、ワカナ」 伊吹の胸のあたりがもぞもぞ動き、ポケットから呼ばれた相手が顔を出した。 「はふぅ~、びっくりだよ~」 「ごめんワカナ。あなたがポケットにいることつい忘れてたわ」 伊吹の胸ポケットから出てきたのは彼女の神姫、猫型MMSのワカナだ。ワカナは頭のネコ耳をぴくぴくさせながら目を回している。 「舞ちゃんひどいよ~。ボクがぽけっとでお昼寝してるときに、カンセツワザはダメ~っ」 「ごめんごめん、次からは気をつけるから」 伊吹は自分の頭をポカリと叩きながら「てへっ」と舌を出す。本当に反省してるのか。 「むぅ~、ボクはゴキゲンナナメだよ~」 「そんなこと言わないで、後でワカナの好きなもの買ってあげるから」 ふくれっ面をしていたワカナがその伊吹の一言でパッと明るくなる。 「ほんとう? だから舞ちゃん大好きっ♪」 「あたしだって、ワカナのことダ~イ好きだよ♪」 そして伊吹はワカナを抱きしめ頬ずりする。ワカナも心底嬉しそうな表情。なんというか、よく連携の取れた神姫とオーナーだ。 シュンがやれやれといつも通りの幼馴染に呆れていると、この段階にいたってようやくゼリスも本を閉じ腰を上げた。 「全く……騒々しい方々ですね。これではおちおち本も読んでいられないではないですか」 「……嘘つけ、さっきまで完全に無視してたクセに」 シュンの指摘に聞こえない振りをしつつ、ゼリスはジャレ合うふたりと向き合う。 「初めまして。あなた方がシュンのご学友である舞さんと、そしてワカナさんですか?」 「そうだよ~ん。へえ~、あなたが噂のシュっちゃんの武装神姫かぁ」 「ゼリスと申します」 そうしてゼリスはぺこりとお辞儀をした。それを見た伊吹の表情がパッと輝く。 「よろしくね、ゼリス」 笑いかけながら伊吹は握手しようと手を差し出た。しかしゼリスは差し出された手を見つめてキョトンとしている。 「なんでしょうか?」 「何って、ゼリスちゃんはまだこういう習慣知らない? 握手よ、親愛の握手♪」 伊吹に言われゼリスはポツリ「なるほど」と呟く。 「まずは初歩的なスキンシップという訳ですね。舞さんは優れた神姫オーナーであると伺っています。これも今日一日の私たちのコミュニケーションを良好かつ円滑に行うためのファーストステップということですね」 ゼリスは納得顔で伊吹の手を握り返す。 「さすがです。これで今日の必要諸用品の購入も、成功が保障されたも同然ですね」 「え……えぇ、そうね……」 洋々と話しかけるゼリスと握手を交わした終えた伊吹は、シュンのかたわらに身を寄せるとささやいた。 「なんていうか……あんたの神姫ってカワイイけど変わった娘ね」 そのままくるっとゼリスに向き直った伊吹は「さあ、それじゃいざ出発。レッツラゴー!」と腕を振りながら、互いに挨拶をしているゼリスとワカナを連れ立って改札に向かう。 後に残されたシュンは空を見上げながら心の中で呟いた。 そんなの、僕が一番よく知ってるんだよ。 ▲BACK///NEXT▼ 戻る
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そのじゅうよん「そして明日は笑おう」 「ティキ。いつまでもそんな所にハマってると、大好きなフィナンシェとマドレーヌがなくなっちゃうよ?」 僕は本棚の、本と本の隙間で僕に背を向けて体育座りしているティキに声をかける。 僕の部屋のテーブルの上には、ティキお気に入りの洋菓子と、温かいロイヤルミルクティーが用意してあった。 しかし当のティキの返事はと言うと、 「……要らないのですよぉ」 ……餌付け失敗、か? あの日の敗北以来、ティキは時折唐突にこんな風に落ち込む。 思い出しては、その度に自身の不甲斐なさを噛み締めている様だ。 そしてそれは僕も同じなのだけれども。 「そっ……か。じゃあ仕方ない。これは全部僕がいただくと言う事で」 僕はそう言って洋菓子に手をつけようとする。 がたっ 本棚から聞こえるその音に、僕は笑みを浮かべて手にした洋菓子を音がした方向へ差し出した。 「無理が持続しないなら、最初から素直になろうね」 「うにゅぅぅぅ~~~~ わかったですよぉ~」 しおしおと本棚から這い出てきたティキは、テーブルの上まで器用に色々と伝ってやってくると、ちょこんと音がしそうなくらい可愛らしく座る。 ティキがそうすることがわかっていた僕は、ティキが座った事を確認し、手に持った洋菓子を改めてティキに差し出す。 ティキは不機嫌そうな顔を隠すわけでもなく、黙ってその洋菓子を食べ始めた。 「……食べる時くらいは笑って食べようよ」 無駄な事は分かりきっているけど、それでも僕はティキに笑う事を薦める。 それに対し、もぐもぐと咀嚼しながらあっさりと無視を決め込んでくれた。 ……武装神姫ってのはオーナーの指示には従うものだろうに。 でも実際のところ、彼女たちにも擬似的とは言え意思があるわけだから、オーナーの全ての欲求に答える事は出来ないんだろうと僕は思っている。 感情、意思がそこに存在する限り、常に命令に従っていては彼女達自身にストレスが生じるわけで。 大体、オーナーと呼ばれるものが人間である限り、矛盾を内包しない命令を与え続ける事は出来はしない。 そんな負荷や矛盾からの安全装置として、『非絶対服従』が用意されていると僕は思っている。……あくまでも個人的な考えで、実際はそんなもの無いのかもしれないけど。 でも、もし『絶対服従』が根底に存在しているなら、神姫達にはなぜ感情があるのか? 完全に命令を遂行する為の機械でいいのなら、もちろん感情なんてものは障害にしか成りえない。 感情や意思がある事で柔軟な対応を求めるのであれば、絶対服従なんてありうるはずも無い。 しかし現実にはオーナーの命令に逆らえず、違法改造とかを受けてしまう神姫も居る訳で。 ……なんだか話がそれた。 「お……おいしいね」 無駄な努力を繰り返す僕。こういう時、女の子の扱いに慣れる人ならどんな行動を起こすんだろうか? だけど生憎と僕は、女の子の扱いに疎い一高校生で、その手合いの経験が圧倒的に不足している。付き合った女の子に一切手を出せないくらいに。 「マスタ」 「はい?」 「こういう時は黙って見守って欲しいのですよぉ」 「……ハイ」 神姫に諭されるオーナーって一体…… って、僕なんだけど。 「……………………」 「……………………」 「……………………」 「……………………」 「……マスタ、こういう時は慰めて欲しいものなのですよぉ~」 ……なんて理不尽な!! もちろんそんな事口に出したりしないけど。 「あー、なんて言うか、元気出せ?」 「心がこもっていないですぅ」 「ソンナコトナイデスヨ、マゴコロイッパイデス」 「なんで棒読みですかぁ?」 「それはね、牛肉が入っているからだよ」 「そんな昔の、しかもマイナーなCMネタ、誰もわからないですよぉ?」 「そんなツッコミが素敵なキミにはこのお菓子をあげよう」 「元々テーブルにあったのですよぅ」 「いやぁ、やっぱりフィナンシェはセブ○イレブ○に限るよね」 「誤魔化すにしてもミエミエ過ぎですぅ」 「イヤだなぁ、ティキ。まるで僕に誠意が無いみたいじゃないか」 「今まで一緒にいて、今が一番誠意が感じられないですよぉ!」 「それはきっとティキの瞳が曇っているからさ」 「今曇っているのはきっとマスタの性根ですぅ!!」 「そこまで言うと僕が可哀想でしょ?」 「自分で自分のことを可哀想って言っても説得力無いですよぉ!?」 「そうだね。……だからティキも自分が可哀想だなんて思っちゃダメだよ」 「――!!」 何も言えないティキ。 言葉を続ける僕。 「負けた事に対する悔しさも、それに囚われてるばかりじゃ意味が無いよ。だから…… だから僕達はその悔しさを糧にしよう。時には立ち止まることも、間違いじゃないけど、ただ失敗や敗北に落ち込むだけじゃ僕もティキもそこで終わっちゃうから」 僕をジッと見つめるティキに、ぎこちないながらも精一杯の笑顔を浮かべて。 「だから、我慢しないで今はいっぱい泣いてさ、そして明日からはまた一緒に前を見ようよ。ね?」 ティキは僕を見つめたまま、ぽろぽろと涙をこぼす。 そしてそのまま顔をクシャクシャにして、わあわあと声をあげて泣き出した。 僕はそんなティキの頭を、指でそっと撫でる。 その僕の指を両の腕で抱きしめ、ティキは泣き続けた。 ひとしきり泣いた後、ティキは僕に照れた様に笑いかけ、そして何も言わずに洋菓子を口にする。 それを見て僕も照れ笑いをすると紅茶をすすった。 紅茶はすでに冷め切ってしまったが、それでも悪くないと僕は思った。 終える / もどる / つづく!
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「……なんか、改めて向き合うと緊張するもんだな」 「そうですわね」 家に着き、俺とヒルダは自室で向かい合っていた。何故か正座で。 ヒルダは居間に置かれている座卓の上に座りながらこちらを見上げていた。 バイザー越しなので視線は感じ取れないが……ちょっとおびえているようにも見える。……無理もないか。自身の中の別人格を意識的に呼ぼうとしているんだから。 しかしまあ、あれだ。こうやってにらめっこを続けていても埒が明かない。 「……ヒルダ、頼む」 「はい、ですわ」 ヒルダがルナピエナガレットに手をかけ、ゆっくりと外す。 こちらを見据えた蒼い目は瞬きをした瞬間に紫水晶へとその色を変えた。 「……あら。ワタクシを貴方自ら呼びだすなんて、めずらしいですわね」 あきらかに居丈高な口調。そして高圧的な態度。 間違いなく、「裏」のヒルダだ。 「さて、一体何の用ですの? ワタクシを呼び出したのですから、理由があっての事ですわよね? 筐体のなかでないのならリアルファイトですの?」 「別に戦うために呼び出したわけじゃないさ。茶飲み話ぐらい付き合ってくれ。お前は俺のパートナーなんだからな」 ヒルダの物怖じしない態度にこちらも緊張が和らいだ。 正座が馬鹿らしくなり、崩しながら答える。 彼女は一瞬ぽかんとした。 「どういう風の吹きまわしですの?」 「……と言うと」 「戦いもないのにワタクシを呼び出すなんて、貴方らしくありませんわ」 「俺らしくないって……」 そもそも俺が望んでこいつにバトルに出てもらったことは一度もないのだが。まあそれはいい。 「俺がお前の存在を認知してからまあ半月ぐらいたつわけだが、表のヒルダと会話をしたことはあっても、お前とは滅多に、いや、全く話す機会なんてなかったからな。バトル中のお前は俺の話を聞かないし」 「ワタクシを扱うに足らぬマスターの言うことなど聞く耳持ちませんわ」 お前はあれか。高レベルか。ジムバッジが足らんのか。八つ目を手に入れないと言うことを聞いてくれないのか。 「それに。茶飲み話と言っておきながらお茶がないのはいかがなものですの?」 「……それもそうだな。淹れるか」 「ワタクシは紅茶がいいですわ」 「そんなハイカラなもん家にはねーよ」 緑茶で我慢しろ。 ◆◇◆ 「意外と美味しいですわね。粗茶ですけど」 「やかましいわ」 スーパーで買った一山いくらの茶葉でもうまく淹れればそこそこうまいものである。 一人暮らしを始めて約半年、慣れれば美味い茶を淹れることなど造作もない。 ヒルダは彼女用にと購入したプラスチックの湯呑を使って茶を啜る。 「……そう言えば神姫は飲み食いできるって愛に聞いてなんの疑いも持ってなかったが、いざ目の当たりにしてみると不思議だよな」 「一応、飲むことはできますわ。濾過されて冷却系に回されますの。固形物も摂取は可能ですが、色々と面倒なのであまりワタクシは好きではありませんわ」 「面倒、とは」 「分解に莫大なエネルギーが必要ですの。エネルギーを得るための行動にそれ以上のエネルギーをかけるのは不毛でしょう?」 それは道理。もともとは人とのコミュニケーション用として考案された機能らしいからな。実用性は皆無だろう。 「食事が趣味って神姫の話を聞いたことがあるが」 「味を感じることはできますもの。ワタクシ達のAIは人間に近い思考をとりますから、美味しいモノを食べて嬉しいと感じるのは当然ですわ」 「そりゃそうだな」 「……さて、ごちそうさまですわ。戦いがないならワタクシはこれで」 「おいおいおいちょっと待てコラ」 バイザーをはめてさっさと交代しようとするヒルダに俺は待ったをかける。 「何ですの?」 「茶を飲んだだけでもう変わる気かお前」 「……お代でも取る気ですの?」 「誰がそんなもん取るか」 うちに勝手に来て菓子漁って帰るどっかの馬鹿はそろそろ警察に突き出してもいいとは思うが。いやそうじゃなくて。 「お茶を頂いた。話をした。茶飲み話という条件はこれでクリアしていますわ」 「お前についての話をしようと思ってるのにお前がいなくなってどうするんだよ」 「ワタクシの話ですの? 茶飲み話と言ったのはそちらでしょう?」 「言葉の綾だ。本当に茶だけ飲んでどうする」 「ではさっさと本題に移りなさいな。ワタクシ、回りくどいのは嫌いですわ」 本題……ねえ。 俺はため息をつく。 いろいろ聞きたいことはあるが……とりあえず。 「お前はもう一人のヒルダの事を認識してるか?」 「もちろんですわ。彼女が表に出ているとき、私も意識はありますもの」 「……はっきりと意識があるのか?」 「いいえ。夢うつつといった感じですが」 これは表のヒルダと一緒か。まあこの程度は予測範囲内だな。 「初めて起動した日がいつかわかるか?」 「二〇三七年十一月十三日ですわ」 正解。つまり、表のヒルダが自我を持った瞬間、こいつも生まれたってことだ。……こりゃ単なるバグなんかじゃなさそうだな。 「初めて戦った相手は?」 「……さっきから何を言ってますの? 愛の持つアルトレーネに決まっているでしょう?」 そう。愛にそそのかされてイーダ・ストラダーレ型を購入し、その場で起動させられてすぐにバトルにもつれ込んだのだ。 バトル終盤、リーヴェの放ったゲイルスケイグルがヒルダの顔をかすめてバイザーが破損。そしてこいつは覚醒し、暴走した。 あの時の愛の唖然とした顔は写真に収めて送りつけてやりたいほど貴重なものだったが、あいにくその筐体の向かい側で俺も同じ顔をしていたに違いない。 そしてその時のリーヴェとヒルダの痴態の録画映像が、アングラで高値で取引されているとかいう噂を聞いたことがある。信じたくもない。 ……次の質問はこれにするか。 「何でお前は戦う神姫全員にセクハラしやがるんだ。今日で被害数が二十を突破したぞ」 「敗者は勝者にとっての供物でしかありませんわ。それをワタクシがどうしようとワタクシの勝手でしょう?」 「相手の感情は無視かよ。それじゃ立派な強姦だろうが」 「敗者は地べたをはいずり回って泣くのがお似合いですわ」 「それはお前個人の考えだもんでとくに言及はしないが、地べたに押し倒して鳴かせるのはいかがなもんかと」 「あら、うまいこと言いますわね」 「褒められても全く嬉しくねーよ」 そしてうまいこと言ったつもりでもねーよ。 「というかあれだ。何でセクハラばっかりしやがる」 「趣味ですわ」 「趣味て」 「他に大した趣味もありませんので」 「なんでだよ。探せばいくらでも見つかるだろうが」 「バトル以外で表に出ているのは『彼女』ですし」 「……それはそうだが」 確かに、今日初めてバトル以外で俺はこいつを呼び出した(呼び出したこと自体が今日初めてだが)。そういう意味では、俺はこいつをヒルダという檻の中に閉じ込めていたともいえる。 「……まあ、確かに。それは悪かった」 「別にかまいませんわ。ワタクシとしては、勝つことさえできればよいのですから」 「正直なところ、それはどうかと思うが」 「何故ですの? 武装神姫は戦うために生まれた存在。戦うことに意義を見出し、勝つことで価値が生まれるものですわ」 「戦うことは確かにお前たちの根幹をなすものだろうが、武装神姫は元々人間のパートナーとして生み出されたもんだろう。それについてはどうなんだ」 「そんなもの、ワタクシの知ったことではありませんわ」 「おいおい……」 つまり俺とコミュニケーションを取るつもりが皆無である、ということか。厄介な。 「なんでそんな俺を毛嫌いしくさる。神姫はマスターに対して絶対とはいわんが従うものなんじゃないのか」 「先ほどから申し上げています通り、ワタクシは貴方をマスターとして認識しておりませんので」 認められてねーってか、くそったれ。 まあ確かに、イーダ型の基本的な性格は高飛車なものだし、むしろヒルダの性格が本来のイーダ型のそれとずれていると言ってもいいから、元々こんなもんなのか? ……神姫オーナーとしての経験値が少ないせいか、よくわからん。 「じゃあどうすればお前は俺の言うことを聞くんだよ」 「未来永劫、ありえませんわ」 「歩み寄りの精神ぐらいみせろよ!」 「貴方がワタクシに適応なさいな」 くっそ、プリインストールされた性格とは言え、腹が立つな。 「では、お話はすみましたね? ではこれで。次は戦いの場でお会いしましょう」 「あ。てめ! こら!」 あわてて掴みかかったが、時すでに遅し。俺の右手のひらの中ではバイザーをつけたヒルダがびくりと肩を震わせて俺を見上げていた。 「マ……マス、ター?」 「……すまん、逃げられた」 ため息をつき、ヒルダを離してやる。ヒルダは俺の剣幕に心底おびえていたようだが、呼吸を整える。 「……くそったれ」 「……結局、どうでした? あの……『彼女』は」 「全く話を聞かなかったよ。なんとかしてあいつの手綱を握る方法を考えなきゃな」 茶をもう一杯淹れながら俺は呟く。ヒルダのにも淹れてやると、彼女がおそるおそる喋り出した。 「あの……マスター。差し出がましいようですが、提案があります」 「……提案?」 「はい。彼女に言うことを聞かせられるかもしれない方法です。かなり荒療治だとは思うのですが……」 バイザー越しに見上げてくる彼女の視線は、どこか決意めいたものを感じた。 俺はぐっ、と湯呑をあおると、彼女に言葉の続きを促した。 ◆◇◆ 「はああああああああっ!」 「くふっ、くふふふっ」 翌日、俺たちはゲームセンターへと足を運んでいた。 今回の対戦相手はリーヴェ。こちらから挑戦した形になる。 開始三分ですでにバイザーは壊れ、裏のヒルダが表出してリーヴェに襲いかかっていた。 ……まあ、今回は想定の範囲内なんだが。 一応、こちらから指示を出しているものの、ヒルダは全く従う気配がない。それでもその一挙手一投足は着実にリーヴェを追い詰めていく。 「く……流石ヒルダちゃん、間近で見れば見るほど感じるすさまじいまでの戦闘センスですよー!」 「御褒めにあずかり光栄ですわ。再び貴女を這いつくばらせて差し上げます!」 下から打ち上げられるエアロチャクラムを副腕に搭載したシールドで打ち払い、リーヴェは距離を置く。させじと突出するヒルダ。 しかしヒルダが自らの間合いにリーヴェを捉える前に、リーヴェはすでにシールドと大剣ジークリンデの柄の結合を終えていた。 シールドが展開。内部からエネルギーの刃があふれ出すと同時に、リーヴェはそれを投擲する――! 「――【ゲイルスケイグル】!」 副腕から豪速で放たれた槍は一直線にヒルダへと向かった。極至近距離で放たれたそれをヒルダは避けきるすべがない。 「!!」 「――くふふっ」 しかしそれをヒルダは素体にあたらないレベルの挙動で避けた。左のエアロチャクラムが接続パーツごと千切れ飛んだが、ヒルダの突進自体は止まらない。 ヒルダは右手首の袖を展開。リーヴェにアイアンクローを叩きこんだ。 途端にリーヴェの膝から力が抜け、地についてしまう。 「し、しま―っ」 「くふふふふっ。それでは頂きますわ――?」 ビーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ! ――Surrender B side. Winner Liebe. いつものように鳴り響いたサレンダー。 しかし、それによってジャッジシステムが告げた勝者の名はヒルダではなく。 「――え――」 ヒルダの身体が一瞬にして0と1へと分解され、空へと還っていく。 リーヴェはそれを見送り、呟いた。 「幸人ちゃん、ヒルダちゃんは手ごわいのですよー。頑張ってくださいねー」 ◆◇◆ 「……これでよかったわけ? 本当に」 向こう側の筐体でリーヴェを回収しながら愛は言った。 「大丈夫だろう。ヴァーチャル空間で裏ヒルダが現れても、ゲームが終わればその意識は自動的に封じられる。あとは根競べだ」 俺はヒルダを胸ポケットに入れて答える。 「ヒルダ、もう一人のお前の事何かわかるか?」 「……多分ですけど、すごい怒ってます」 だろうな。だけどこっちもそれが目的だし。 勝つことを至上とし、固執する裏ヒルダに手綱をつけるには、そのプライドを叩きつぶすほかない。 そのための方法としてヒルダが提案したのは、裏ヒルダが暴走しそうになった瞬間、俺がサレンダースイッチを押すことだった。 ……行き過ぎて暴走しないよう、調整は要るだろうが。 ヒルダの勝率も落ちるし、俺自身にはデメリットしかないが他に方法も思いつかない。行き当たりばったりの作戦であることはわかっているが……。 あれだ。裏ヒルダの手綱を握るための先行投資だと思おう。普通に勝つなら勝たせてやればいいんだし。 「さて、これが吉とでるか、凶とでるか……」 俺はため息をついて、再び筐体の前に座った。 幸い、対戦相手に関しては断った面子にこちらからメールを送ることで事欠かない。 もちろんこちらの作戦に関しては伝えて了承を取ってある。 あとは裏ヒルダが折れてくれるのを待つだけだ。 俺はそう思いながらヒルダをエントリーポッドへと送りこんだ。 進む 戻る トップへ
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鋼の心 ~Eisen Herz~ 第21話:夜明けの翼 「ほほぅ、VR(バーチャル)は初めてなのだが表とあんまし変わんないのな~」 「僕は起動してからの一週間で、50時間は篭ってました」 はしゃぐマヤアのすぐ隣、感情の無い声で呟くセタ坊。 少し目がウツロで、虚空を見詰めている。 「……ますたー、止めて下さい、止めて下さい。……3時間以内に命中率100%にしないと尻尾引っこ抜くとか、マジ外道です」 「んゆ、セタ坊?」 「ぷち達も恐がってます、もう出来ません分りませんゴメンなさい許してください、わふぅ~っ!?」 「……むにに、セタ坊が壊けた」 『ふふ…。懐かしい思い出ね、もうあれから3ヶ月も経ったなんて……』 『いや。普通に神姫虐待でしょ、こういうの』 『雅さんの愛情は祐一君以外にはネジくれてますからねぇ、ははは』 『……ははは。じゃねぇよ』 「ダメです、この的動いてます、なのに外しちゃダメとか無理です、出来ません、嗚呼止めて、一発外すごとに尻尾1ミリ切るとか酷すぎです、そんな、三つ編みとか信じられません、尻尾三つ編みにされたらボクの人生お終いです、一生三つ編みされたミットモナイ尻尾でわふわふ逝ってるだけの駄犬ですか、ゴメンなさい、ヘタレでゴメンなさい、息しててゴメンなさい、存在しててゴメンなさい、ウマレテキテゴメンなさい……」 しゃがみ込んでぶつぶつ呟くセタに、さすがに浅葱も顔を顰める。 『……雅、アンタ本気で犯罪よ、こういうの……』 『愛の鞭よ』 『死をも厭わない鞭に、愛の名を関するのは如何なものかと……』 『ほ、ほら。獅子は我が子を千尋の谷に叩き落すって言うじゃない、そういうものよ。……多分』 『……多分、ってあんたね……』 『千尋の谷に突き落とした挙句に、上から煮えたぎった油を注ぎこむような厳しさですねぇ……』 「あー、よく分からんが―――」 人間同士の会話に加わるマヤア。 「―――要するに、セタ坊は雅んにメチャクチャ愛されてると?」 『よし、バカネコ良いこと言った!!』 「何処をどう聞けばそういう結論になるんですか~!?」 自閉症モードに移行しつつあったセタ坊は、マヤアの一言を機に図らずも復活を遂げた。 「え~っと、皆さんそろそろ宜しいですかぁ~?」 マヤアとセタの間に、デフォルメされたフォートブラッグが出現する。 「おおー、デルタちん。何時もよりも少しちっこくなったか?」 「……この端末CGは極小サイズだと思うのですが……」 「まぁ、そんな小さな事はどうでも良い―――」 『誰が上手い事言えと……』 「―――そんな事より敵は何処だ?」 「もうじき出現します」 『今、そちらに転送しました。すぐに現れますよ、戦闘準備を!!』 村上の声と共に、VRフィールドに歪みが生じてゆく。 「……所で。今更なんですが、『敵』って何なんですか? コンピュータウイルスとか?」 『いえ、このパターンは恐らく……』 「多分、武装神姫じゃん? データだけ転送してきたんじゃねーの?」 マヤアの予測が正解であることは、その次の瞬間に証明された。 『やはり、神姫……。それに、この形状は……』 VR空間をモニターする画面に映る姿はまぎれも無く武装神姫のそれ。 そして、機種不明でありながらも、ある意味雅たちにとっては馴染みの深い黒衣。 『……天海の幽霊……。土方真紀の武装神姫ですか……』 双刀と翼。仮面と黒衣を身に纏い、漆黒の神姫が降り立った。 ◆ 「……とりあえず、分った事が三つある」 「聞きましょう」 トドメは何時でも刺せる。 それ故に焔星はアイゼンの舌戦に付き合うことにした。 「……まずはお前の弱点……」 「……」 アイゼンが指差すのは、焔星に撫でられている二機のぷち。 「……そのぷち達は、性能の代償に稼働時間が弱点。……どちらも数分程度で活動限界になるでしょう?」 「そうでしょうか。……既にこの子達が参戦して10分は経っていると思いますが?」 焔星の指摘にアイゼンは頷く。 「……そう、だから補給が必要」 「そんな暇が、何時あったと?」 「……今」 言い切ったアイゼンの指先に、ぷちを撫でる焔星の手。 「……そうやって触る事で、お前はぷちに補給をしている……」 『どんな神姫だって、クレイドルとの接触で給電を受けるんだ。……その逆に、接触で電力を送るのは造作も無い事』 「なぜ、……そう思ったのですか?」 「……時々戦闘を中断してぷちを撫でてたし、さっきは後ろの砲撃型をわざわざ前線に出してまでボードアタックをしてきた。……そんなに効果的でも無い攻撃だったのに……」 『……つまり、あのボードアタックには攻撃以外の何か別の目的があったと言う事になる。……例えば、補給とか……』 「……ふむ」 『……そう考えればそのぷちの性能にも納得がいく。それだけの装備を運用するのにも拘らず、ジェネレーターを搭載せずにバッテリー駆動だけで稼動させていた。……だから、それだけの性能を詰め込めるわけだ』 「……なるほど、お見事です。……では、二つ目をお聞きしましょう」 「……お前の奥の手。……出し惜しみなんかしないで、さっさと“真鬼王”を出せば良い」 「……………………」 流石に絶句する焔星。 装備構成だけで奥の手まで暴かれるとは予測していなかった。 「見抜いたのは流石ですが……、今の貴女を倒すのに、わざわざ切り札を切る必要があると思いますか?」 「……それじゃあ、三つ目。……“真鬼王”を使っても、使わなくても、この勝負は私の勝ち、だ!!」 言って横跳びに距離を離すアイゼン。 同時にハンドガンの連射が焔星を襲うが、彼女はそれを難なくシールドで弾く。 「それが最後の武器ですか。……それこそ豆鉄砲と言うもの、私には通用しない!!」 反撃のプロトン砲は、アイゼンのハンドガンとは比べ物にもならない威力を持つ。 しかし、アイゼンもそれは承知。打ち合いを早々に切り上げ、回避に徹して距離を取る。 「逃す訳無いでしょう!?」 「……もちろん」 アイゼンは逃げ込むようにビル街へと移動する。 目的は焔星のセンサーに死角を作ること。 追われているアイゼン自身がそこに逃げ込むのは不可能かもしれないが、ノーマークのサポートメカがそこを通って接近する事ならば容易い。 「ちょこまかと逃げるなど、らしくない戦法ですね。……チーグルを失った時に貴女の敗北は決まったのです。大人しく負けを認めなさい!!」 「……そうでもない。……間に合った」 「?」 訝しむ焔星には、ビルの影から低空飛行でアイゼンに近付くそれが見えていない。 「……フランカー!!」 「ちっ!!」 猶予がないと気付いた焔星がアイゼンに向けプロトン砲を叩き込む。 閃光と轟音。 そして衝撃波。 この距離ならば、外した所で至近着弾は免れない。 今のアイゼンの機動性では、爆発範囲からは逃げ切れまい。 (……これで終わりですか。少々呆気無いような気もしますが……) そして、吹き込む疾風が爆風吹き散らす。 「―――!? 何!?」 爆煙が晴れ、プロトン砲の着弾痕が露になるが、その周囲の何処にも倒れたアイゼンの姿は無い。 「撃墜カウントも入っていない!?」 それはつまり、未だアイゼンが健在である証左。 「しかし、何処へ消えた!? 一番近いビルでも走って逃げ込むには時間が足りない筈なのに!?」 「……上」 「―――!?」 真上からした声に顔を向ける焔星。 そこに、吹き込んできた疾風の源。鳥に乗って空を舞うアイゼンが居た。 ◆ 「……」 声も無くたたずむセタ。 マヤアと組んでの2対1の戦闘ではあるが、セタに出来るのはただ見守る事だけだった。 セタには手が出せぬほどに、マヤアも黒衣の幽霊も速い。 打ち込んだ吠莱を魔弾で操り、必中を狙った直後。砲弾そのものを両断し、幽霊はマヤアとの高速打撃戦に突入した。 双方両手に刃を持ち、間断の間も無く打ち付け合う。 隙を狙って蹴りの応酬が行われ、突きと払いは一動作になって相手を追い詰める。 しかし、両者の力はほぼ互角。 目まぐるしく位置を変え、左右と上下を入れ替えながら剣戟の音を響かせた。 「ネコネコネコネコネコッ!!」 マヤアの振るったブレードを幽霊が刃で受け流し、その動作がそのままマヤアの首を狙う一撃に切り替わる。 マヤアが蹴りで肘を狙い、その一撃の阻止を試みれば、幽霊はもう一方の刃でマヤアの脚そのものを狙う。 レールガンがその刃と交錯する軌道に打ち出され、幽霊はマヤアを蹴って距離を僅かに離して仕切りなおし。 このような刹那の攻防が数秒程度の間に10度以上繰り返され、その位置は数十メートルの単位で瞬時に移動する。 飛び交う銃弾すらももどかしい高速戦闘において、最早セタの出る幕は何処にも無い。 「……こ、これ程とは……」 「うん、すごいよね幽霊……」 「……むしろ、マヤアさんに驚きなのですよ。……強いとは思っていましたが、これ程までとは……」 デルタのセリフ、5秒強の間に響いた剣戟は22回。 これ程の反応速度と、それを実行に移せるスピード。 手の届く範囲に入ってしまえばセタ如きでは話にもなるまい。 かと言って、精密砲撃だろうが誘導砲撃だろうが、まともに当たるとも思えない。 神姫としての実力が、ケタどころか次元単位で違っている。 そして、そんなマヤアと互角に渡り合う以上、幽霊の実力もそういうレベル、と言う事になる。 「……なるほど、誰も勝てない訳ですよ……」 デルタの声を、剣戟が上塗りしてゆく。 もはや、する事も見出せず、セタとデルタはただその戦いを見守るだけだった。 ◆ 「プレステイル!? ……そういう事か」 武装を失った筈のアイゼンの自信。 それが、もう一つ装備を持ち込んでいた事に由来するものだと、ようやく焔星も気付く。 「しかし、大勢は既に決しています!! ここで追加戦力など無意味にも程がある!!」 「……そうでもない。……プロトン砲の特性は、対空射撃に不向き」 「……っ」 確かに、着弾して爆発するエネルギー弾を撃ち出す以上、敵以外に接触物の無い対空射撃において、プロトン砲は直撃以外完全に無駄弾になる。 (光阴の速度では追いつけないし、闇阳の対空射撃だけでは捉えきれない……。) 先ほどまでのパワー重視の戦闘スタイルとは一転し、高い回避力での撹乱に入ったアイゼンは、ぷちの性能だけでは追い詰められない。 元よりぷちとの連携は重量級神姫との戦いに特化した戦法で、このような高機動型の神姫には対応していなかった。 (……その為の“真鬼王”ですが……、さて、それまで読んで居るのかどうか……) 祐一の読みどおり、焔星は確かに真鬼王モードを温存している。 だがしかし、それはアイゼンに対して使う必要が無いのではなく、用途の問題として不適切と判断したからに他ならない。 通常の真鬼王のイメージとは真逆に、焔星の真鬼王モードは高速戦闘に対応する為の形態だったからだ。 (……つまり、今が使い時ですが……) 何となく、祐一の掌で踊っているような錯覚に捕らわれ、焔星は苦笑する。 (……普通ならまず無い、一人の相手との戦いで全ての要素を使用する状況……。……私は彼にハメられて居るのかもしれませんね……) だがそれもよし。 元より主の望んだ戦いだ。 焔星は己が元にぷち達を呼び寄せる。 「……お望みどおり、見せてあげましょう。……真鬼王を!!」 焔星の宣言と共にぷち達がフォーメーションに付く。 分離、変形を経て焔星に組み付き、巨躯を構成するまで僅かに数瞬。 「三体合并……!! 真鬼王・零(ツェンカイワン・レン)!!」 二体のぷちとの合体により、焔星は真鬼王をその身に纏った。 特筆すべきはやや小柄である事のみで、その概要は通常の真鬼王と変わることは無い。 プロトン砲とデスサイズがシェルエットを崩してはいるが、むしろ違いはその内面にこそある。 「―――加速!!」 光阴を浮遊させるための揚力場と、闇阳を飛行させるための推進力。 その双方が焔星の背負ったジェネレーターと直結され、制限を解き放たれる。 焔星の真鬼王=零は、その名の通り一秒にも満たない時間で彼我の距離を“0”にした。 「斩(ツァン)!!」 「…ん」 アイゼンがハンドガンのトリガーを引いたのは、その一瞬だけ前の事である。 結果として焔星は、自ら虚空に放たれた銃弾に当たりに行く形になるが、アイゼンの行動は、焔星の零の性能を正確に予測したからこそ。 逆に言えば、零が動き出してからではアイゼンに反応する術は無い。 『行くぞ、アイゼン。アサルトフォームだ』 「……ん」 短く頷き、改造型のプレステイル=フランカー/フライトフォームを上昇させる。 限界高度に達しこちらも分離、変形を経てアイゼン本体に合体。 零と比しても小柄な人型を形成する。 ベースとなったエウクランテに酷似したシェルエットだが、翼は細く長く、腰の後ろには双発式の斥力場エンジンが唸りを上げ、その身体を宙に留めていた。 「……全システム高速戦闘モードに移行」 ≪Assault form wake up≫ フランカーに組み込まれたサポートAIのインフォメーションが響き、戦闘形態であるアサルトフォームへの移行完了を告げた。 変形に伴い、フライトフォームで中枢を成していたエンジンユニットは背部に回され、アイゼンはそこから小さな基部を一つ分離させ右手に収めると、主である祐一へと問う。 「……マスター、指示を」 『不慣れな高速戦だがやれるね?』 「……ん」 『それじゃあ全力で行くぞ。……斬り捨てろ、アイゼン!!』 「……んっ!! ……アクセラレータ、起動!!」 ≪system“Accelerator”starting up≫ 祐一の指示を受けて、弾かれるように突進するアイゼン。 その速さは、疾風のそれ。 もはや、ストラーフとは思えない速度を以って焔星に迫る。 「……ッ!?」 瞬時に眼前まで近付かれ、勢いに任せた蹴りを浴びる焔星。 間髪居れずに回し蹴りから後ろ回し蹴りへと繋ぎ、零の体躯が大きく吹き飛ぶ。 「速い!?」 驚愕する間もあればこそ、その一瞬で離れた間合いはアイゼンの突進で即座に詰められる。 「―――なッ!!?」 そして青い光の奔流が閃き、手にした大鎌が寸断された。 「ば、……馬鹿な……!?」 ≪“RayBlade”Disposition≫ アイゼンが手にしたモノは光の剣。 他ならぬ、カトレアと同じ超高出力型のレイブレードであった。 ◆ 「……なんと、愚策」 彼女は、それを見て詰まらなそうに呟いた。 ◆ 投刃と衝撃波、狙撃銃とリニアガンの中距離応酬から一転して、両者肉薄しての高速打撃戦。 目まぐるしく位置を変えながらの高速戦闘も終わりが近付いてきたようだ。 マヤアはとっくにライフルを捨ててしまっているし、黒衣の幽霊も新たに投刃を繰り出す気配は無い。 時折、開いた間合いを惜しむように翼からの衝撃波や背部ユニットのリニアガンを打ち合うが、即座に距離は詰まり打撃の応酬に戻る。 互いに消耗が進み、飛び道具が心許なくなってきたのだろう。 「……だからと言って、何が出来る訳でもないのですよ……」 「わふわふ」 戦場の端っこでお茶を啜るデルタと、尻尾のブラッシング(VR空間なので実は無意味)にいそしむセタ坊。 一応今でもマヤアをシステム的にバックアップしているデルタはともかく、セタに到っては本気で何しに来たのやらと言う有様だが、相手がアレでは仕方もあるまい。 「にゃーーーっ!!」 マヤア渾身の一撃が、幽霊の刀一つを途中からへし折った。 「……無為」 折れた刃を投げ捨て、幽霊は残る一刀でマヤアのフォビドゥンブレードを叩き落す。 「ニャ!?」 武装の喪失に伴う戦術パターン切り替えにより生じた微かな隙。 本来であればどんな神姫やオーナーでも無視する程極微の間断ではあるが、事ここに到ってマヤアと幽霊にとっては隙と呼ぶべく数少ない瞬間であった。 「……絶!!」 真横に振るわれた刀。 それが狙いを違わずマヤアの胴を薙ぎ……。 すり抜けた。 「―――!?」 バラバラになって落ちてゆくツガルタイプのアーマー。 と、それらが弾かれたように集結し、ひとつの形状をなしてゆく。 「……レインディア、バスター……」 幽霊の呟きも終わらぬうちに、自由落下から明確に意図された加速で機首を起こして上昇を始める。 「……」 そして、あの一瞬の攻防で上空に逃れていたマヤアを乗せ、突撃を開始した……。 ◆ 近接用のメインウェポンであるデスサイズを失い、焔星は大きく後退して距離を取る。 「……っ、これほどまでに高出力のレーザーブレードだとは……」 恐らくはプレステイルの中枢を成すボレアスユニットから射撃機能をオミットし、ジェネレーターとしての機能に特化させて得た高出力を流用しているのだろうが、分かった所で防ぎ様など無い。 「―――ならば、寄せねば良いだけです!!」 脚部に固定されたハンドガンと肩部のキャノン砲が展開し、アイゼンとの空間に濃密な弾幕を形成する。 「装甲を捨て機動力を取ったのでしょうが、それならば逆に小口径弾一つが致命傷になります!!」 先ほど使用したときにはチーグルの装甲に阻まれ、碌なダメージにはならなかったが、この飛行可能なユニットに同様の防御力があるとは考えられない。 故に、この弾幕を回避してから、レーザーブレードの一撃を狙う為に突進をしてくる筈。 (そこをプロトン砲で打ち落とす) そう考える焔星の元へ、アイゼンはしかし、一直線に突っ込んできた。 「……まさか、この弾幕に耐えられるつもりですか!?」 『元々アイゼンに回避主体の戦法が不向きなのは重々承知』 今までは基本的に、重装甲による防御主体のディフェンスを重視してきたのだ。 それを今更回避力ですべて置き換えられるとは、祐一もアイゼンも思っていない。 故に。 「……バリアの一つ位は用意してある!!」 ≪Hadronic field≫ アイゼンの周囲を覆う、薄い光の球体。 微かに青く発光するそれに阻まれ、弾幕が弾かれてゆく。 「―――ならば、プロトン砲でっ!!」 『怯むな、アイゼン!! シールド集中!!』 「…んっ!!」 砲口から溢れ出した白い光の奔流は、しかし、アイゼンの掌の先に広がるディスク状のバリアに阻まれ四方八方へと逸れてゆく。 「貫けぇーーーっ!!」 「……負けないっ!!」 プロトン砲と斥力場シールドの均衡は数秒続き、途絶えた。 「そんな……。チャージ容量の限界? プロトン砲の全力照射に耐え切るなんて……」 「……言った筈。私はカトレアを倒しに来た。……お前如きに負けてなど居られない」 プロトン砲の閃光が途絶え、幾分濃さを増したシールド越しにアイゼンの姿が見える。 「……これで、終わりだ」 「―――!?」 背部から切り離したエンジンユニットに追加砲身を直結させた『砲撃モード』。 「―――消し飛べ……。『フェルミオン・ブレイカー』!!」 ≪Fermion Breaker≫ 砲口からプロトン砲以上の白光があふれ出すのを、焔星は呆然と眺めていた。 「―――ぁ」 そして。 閃光と轟音に全てを押し流され、焔星の意識は途絶えた。 ◆ ガチャン。と音を立てて、破損した砲身が切り離される。 『勝った、か』 アイゼンのステータスに追加された撃墜数1。 焔星を下した何よりの証拠だが、その実、二人が対カトレア用に取っておいた切り札をここで使用してしまったことは大きい。 限定的とは言えブーゲンビリアのレーザーに近い威力を持つ『フェルミオン・ブレイカー』も使用回数2発の内1発を使ってしまったし。 なによりこちらの切り札が『レイブレード』である事は、最早カトレアには隠しておけないだろう。 元より対四姉妹戦を前提に開発された【フランカー】は、四姉妹の特化能力に対抗できる事を目的としている。 カトレアの『レイブレード』と『バリア』。 アルストロメリアの『機動性』。 ストレリチアの『移動速度』。 そしてブーゲンビリアの『高出力レーザー』。 これらの能力全てに対抗する為に、【フランカー】には変形能力と強力なエンジンから発生する出力を利用したレーザーブレード、バリア、そして陽電子砲が搭載されている。 しかし、土方京子と祐一の技術力の差は明白で、汎用性を落して尚、純粋な性能で及んでいないのが現状だった。 故に、勝機は不意打ちによる短期決戦しか無い訳だが、焔星の登場によりその予定は水泡と帰し……。 『で。今までのバトルロイヤルに居なかった以上……』 祐一が見すえるアイゼンの視点の中央。 ≪Warning!! NeXT enemy Engaging≫ AIの警告が促すその先に……。 『……ここで出てくる訳だな、カトレア……』 ジュビジーの装備で武装したジルダリア。 土方京子の四姉妹が長女。 カトレアが、そこに居た。 ◆ 「……カトレア」 「お久しぶり、と言った方が良いでしょうか?」 「……」 残存神姫は残り5。 未だ脱出した神姫が居ない以上、この五人の中で最初に敗れたものが予選で敗退する事になる。 「貴女は危険だと判断を下し、あのマオチャオ、アーンヴァルと共に最優先の警戒対象としていたのですが―――」 言葉を切り、アイゼンを見下ろすカトレア。 「―――どうやら見込み違いだったようですね……」 「……っ!!」 カトレアの右手から伸びる赤い光剣。 「いくら私達のマネをしても、その程度の技術力で神姫の開発に携わったマスターを超えることなど不可能―――」 最早アイゼンを脅威とは見ないしていないのか、無造作に歩を進めてくる。 「―――ましてや。……その様に無理やり詰め込まれた装備ではバランスなど望むべくも無い」 互いの間合いギリギリでカトレアは足を止めた。 「それで私に勝つつもりだったとは、笑い話にもなりません」 対峙するアイゼンは、未だ光剣を発振させては居ない。 出力で劣るだけでなく、稼働時間に天地の隔たりがあるからだ。 今から展開しておけるほど、アイゼンのレーザーブレードには稼働時間の余裕が無い。 「……実際、ストラーフの装備の方がまだ勝ち目があったと思いますよ? ……そのような私に対して勝る部分が一つも無い装備で、本気で私に挑むつもりなのですか……?」 光剣を構え、体勢を落すカトレア。 同様に、アイゼンもまた迎撃の姿勢を取る。 「……正直、失望しました。……貴女とはここで終わりにしましょう」 真紅の閃光。 高速で振り下ろされた光剣を辛うじて受け止めるアイゼン。 レイブレード同士が干渉し合い、閃光と耳障りなノイズ音を撒き散らす。 「……何も、対策が無いわけじゃない!!」 ≪“RayBlade”Re-disposition≫ 膠着状態を打破するべく、アイゼンがもう一本レイブレードを取り出し起動。 二刀を交差させカトレアを押し返す。 「ふんっ、……それが対策と言うのなら、下らないにも程があります」 カトレアは何もしない。 ただ、そのまま力ずくでレイブレードを押し付けてくるだけだ。 「……っ!?」 しかし、ただそれだけの事でアイゼンのレイブレードは二本とも干渉波で機能不全を起こして途絶えがちになる。 『……大元の出力が違いすぎる……!! やはりこれだけでは無理か……』 「機動性や速度でもアルストロメリアやストレリチアに劣るのでしょう? 先ほどの火力もブーゲンビリアとは比べるべくも無い!!」 「…っ!!」 「ましてや、バリアやレイブレードの性能で私に挑むとは、愚かにも程がある!!」 膠着状態を維持するのに集中しているアイゼンの無防備な腹部をカトレアが大きく蹴り上げた。 「…かはっ!?」 蹴り飛ばされ、地面に叩きつけられたアイゼンに、悠然とカトレアが詰め寄ってゆく。 「……貴女なら、或いはマスターを止められるかとも思ったけれど……」 「くっ…、けふっ…!」 「……いえ。……元より望む事では、無いのでしたね……」 呟き、カトレアは光剣の切っ先をアイゼンに突きつける。 「……終わりです」 そして。 ◆ VR空間での決着が付いたのは、第四バトルロイヤルが終わるのとほぼ同時だった。 データ分解を起こし、消え往く幽霊の残滓。 仮面が消え、本体が消える一瞬のラグの中に、マヤアは幽霊の瞳を見た。 「……?」 そして、そのまま物言わず消滅する幽霊。 「……なあ、浅葱。あいつ死んだのか?」 『どうなの、雅?』 『どうなの、村上君?』 浅葱、雅を通じて村上まで上訴された質問に彼は静かに答える。 『いえ、コピーされた分身を倒しただけでしょう。神姫本体を如何にかしなければこの事件は終わりません』 『……そっか、ハッキングしてきたのが土方真紀の神姫だって事は、やっぱ黒幕は土方真紀で確定か……』 確証を経て、目的ははっきりとした。 「……あとは。土方京子からウイルスのサーバー本体の位置を聞き出すだけですね……」 『ええ、予選を突破していれば控え室で会えるわ』 「素直に教えてくれるでしょうか?」 『教えてくれないのなら、力ずくでも聞き出すまでよ』 冷徹に言い放ち、雅は視線を移す。 「……あとは、アイゼンさんが勝てるかどうかですか?」 『ま、それが一番の問題かな……』 雅の表情は硬く、中央制御室にあるモニターの一つ。 第四バトルロイヤルを映し出しているモニターを見据えていた。 ◆ 第四バトルロイヤル終了。 残機数4。 これで、本戦に出場する16名の武装神姫が出揃った事になる。 「……マスター、ゴメン……」 「まぁ、いいさ。次は勝とう」 ポッドから出てきたアイゼンを労う祐一。 カトレアとの戦闘は完全にアイゼンの敗北だった。 「祐一!!」 「祐一」 美空とリーナが駆け寄ってくる。 「ああ、二人とも……」 「祐一、その……、―――!?」 「どうしたの、二人とも」 美空とリーナのみならず、フェータまでもが絶句し祐一を見ていた。 いや、正確にはその背後に立つ女、を。 「久しいな、少年」 「京子さん?」 振り返る祐一の背後に、コートを着込んだ眼帯の女。土方京子が立っていた。 「……惨敗だったじゃないか。……私を止めるのだろう? このままでは、叶わぬぞ……」 「…………………はい」 祐一は静かに頷く。 「……でも、次は必ず勝ちます。……その為の【フランカー】ですから」 「……そうか、ならば何も言わん。……やって見せろ」 無言で頷き、祐一は意を返す。 「京子さん!!」 「なんだ?」 「本戦で、もしもアイゼンが勝ったら……」 「……勝ったら?」 「その時は、俺の言う事を一つだけ聞いて下さい……」 「……ふむ……」 興味がありそうでなさそうな、そんな微妙な表情を浮かべ、京子は微笑んだ。 「……よかろう。では私が勝ったらお前は私の言う事を聞いてもらう。……いいな?」 「はい」 その返事を聞き届け、京子は微笑を浮かべて歩み去る。 レライナを除く五人は、黙ってそれを見送った。 「で、どうするのよ?」 「……次は勝つさ……」 不安そうに尋ねる美空に、祐一は静かに答えた。 「……次はもう、負けられない……」 先のバトルロイヤル。 アイゼンに止めが刺されるより早く、他所で決着が付き神姫の残存数が4になった。 その時点で戦闘が終了した為、アイゼンも本戦に進出できたものの、結果としてみればカトレアには歯が立たなかった事になる。 「……もう、負けられないんだ……」 「ん」 祐一の肩の上で、アイゼンが応えて頷いた。 第22話:THE SECRET WISHにつづく 鋼の心 ~Eisen Herz~へ戻る ど、ドラクエ5クリア……。 20時間位? 普通のRPGに掛かる時間ってこのぐらいだよね? と思う今日この頃です。 Aボタンがへこみっぱなしでなければもっとストレス無く遊べたでしょうに……。 ああ、ヨメはフローラで。 性能重視の人ですから、私。 閑話休題。 焔星の元ネタはファイブスターのマシンメサイア。 …と見せかけて、実はAC4fAで人から貰ったネクストの設計図(そっちの元ネタが多分FSS)。 回避最優先の軽量級にコジマキャノンとドラスレという無謀な装備がお気に入りだったり……。 まぁ、ソブレロに雷電グレ積んだグレ単ネクスト作った私が、無謀とか言えたもんじゃありませんが……。 残るはP4。 今回ペルソナに鈴鹿御前と信長が出るらしい……。 やべぇ、超楽しみ……。 ALCでした~。 -
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入手条件 性格 声優 デザイナー 素体性能プラス補正アビリティ マイナス補正アビリティ ライドレシオMAX時の上昇能力 イベント 固有武装装備時ステータス 色変更髪 瞳 入手条件 DLC「武装神姫 Moon Angel」全話DLでショップに追加 性格 基本的にはアーンヴァルMk.2と同一。 カラーリングこそアーンヴァルMk.2のリペイントテンペスタと似ているが、ペイントが違うため別物らしい。 ただし、戦闘前の掛け声(神姫決定時)等、性能以外でも細部が通常のアーンヴァルと異なっている。 また、内部的には別の神姫として扱われているためか、手作りの髪飾りでヘアエクステが消失したり、 ヘッドセンサーラシュヌ、ユニコーン改などを装備すると後頭部の描画が軽くバグったりする。 声優 阿澄佳奈(ひだまりスケッチ:ゆの、WORKING!:種島ぽぷら、他) デザイナー 島田フミカネ(ストライクウィッチーズ、メカ娘等) 素体性能 LP ATK DEF CHA DEX SPD 400 45 42 40 20 4 プラス補正アビリティ 攻撃力+3 小剣、大剣、ランチャー+1 マイナス補正アビリティ 防御力-3 斧、浮遊機雷-1 ライドレシオMAX時の上昇能力 防御力、武器エネルギー回復、スピード イベント アーンヴァルMk.2と同じ 固有武装装備時ステータス 色変更 色は編集者からみた色で、人によって見え方は異なります。 髪 A.淡紫(デフォルト) B.赤 C.青 瞳 A.赤(デフォルト) B.紫 C.黄
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「あぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」 冒頭からオッサンの悲鳴で申し訳ない… あの騒がしかった事件(?)から数日、とりあえず俺とアルティのわだかまりについてはひと段落着いた………と思いきや… 世界は俺にしばしの安息を与えることを忘れているような気がする ホント最近は何故こんなにも問題が次から次へと出て来るかな… 嘆いていても仕方がないのでとりあえず本題に入ろうか 俺たちは今、フェレンツェ博士の書斎にいる おっと、そういや研究所がどこにあるか言ってなかったかな? 場所は都内にある鳳条院グループ本社ビルの22階、そこが博士の研究所なんだが正式名称『武装神姫日常生活部門研究部』となっている つまりは技術会社である鳳条院グループの神姫関連の研究部という位置づけになっているんだが、こうなっている事についてはちゃんと理由がある 何度も言うようだが人型神姫インターフェイスは超極秘間での研究なんだけどフェレンツェ博士は有名人、それも国際的重要人物のお偉いさんなわけであるからして世界中から注目されてちゃ極秘も何もあったもんじゃない というわけでジジイの会社、鳳条院グループの技術開発指導員としての企業契約を来日理由としたんだとさ それにあわせて博士の研究場所は秘密漏洩対策として鳳条院グループの研究部に組み込んでいるのさ 技術会社なので研究設備、施設共に充実しているここなら博士としても文句はないだろう ………………が 「い、痛いじゃないかユ~ナぁ~;」 そんな博士も娘同然の神姫にいきなりドロップキックを喰らったら文句の一つも言いたくなるらしい それにしても頑丈だな、このオヤジ… 「自業自得だ!! 知ってたくせにアタシ達に黙ってやがって!!」 ユーナが言ってるのは-フィドヘル-が博士の娘であるエリー・カークランドだったと言うことと、-マハ-であるアルティに力を貸していたことを黙っていたことについてである ちなみにユーナはインターフェイスですよ 博士ふっ飛びましたよ五メートルほど… 「仕方ないだろ? 私が喋ってしまっては無粋というものだよ。それに彼女の気持ちには協力してあげたくなってしまったし…」 博士はそういうとアルティの方に視線を向けた 「…ユーナ、それぐらいにしてもらえないか? 博士には私達が口止めしていたんだ。あまり責めないであげてほしい」 「…………しゃぁねぇな」 ユーナはブスッとしたまま頭を掻きながら俺の横に戻ってくる 「…ありがとう」 と、アルティは静かに言った 「ご苦労様、ユーナ」 「スッキリしたよ~」 と、ウチの残りの娘二人はユーナの頭を撫でる 「あぁ~!! やめい! うっとおしい!!」 ちなみにノアとミコもインターフェイス 三人ともさっきまで別室でメンテナンスをやっていたのだ 「いやいや、助かったよアルティ君~」 「いえ、私達がご迷惑を掛けたばかりに…」 「いやいや、研究も手伝ってもらってるし。助かってるよ」 「アルも何か手伝ってるのか?」 「…ああ、データ処理や雑用だけどな」 「それでも助かってるんだよ?今は何かと忙しくてねぇ…」 確かに博士のディスクの上には資料が山積みになっている 「どうかしたんですか?」 「いや…この研究についての問題点をまとめていたんだ……」 「問題点…ですか?」 「うん…あ、インターフェイスの可動自体には問題は無いんだけどね…」 可動以外の…問題点……… 「どういうことか聞かせてもらえますか?」 「うん………明人君には言っておくべきかな…すまないが皆は席を…」 「はい、わかりました」 「OK~。ご主人様、後でね~♪」 「あぁ」 そう言って部屋を出て行くノア、ミコ、ユーナ、それにアルティ 「ノア、ミコ、ユーナ…ちょっといいか?」 「なーに? アルさん」 「おまえたちに話しておきたいことがある…」 部屋のドアが閉じられ、博士の書斎は俺と博士の二人きりになる 「……あいつらがいちゃマズイ話しなんですか?」 「うん…まぁね。それに彼女らは彼女らで話しがあるだろうし…ね」 「???」 どういうことだ? 「さてと、問題点なんだけど……単刀直入に言うと『インターフェイスが今の社会に及ぼす影響』なんだ…」 「インターフェイスが社会に及ぼす影響?」 「ああ、この際初めから順を追って話そう。少し長くなるからそこに…」 そういってソファー(この前ノアがぶん投げたヤツ)に座ることを薦められた俺は博士とテーブルを挟んで向かい合うように腰を下ろした 「私の研究は人と神姫のコミュニケーション…平たく言えば彼女らと彼女らのマスターとなる人との間にある物理的な『壁』を取り除こうというものなんだ。神姫はただのロボットではない。彼女らには感情がある。そうするとマスターと日々を共にする神姫達にはある感情が芽生える可能性が……というか普通に考えると当たり前のように思うんだが…研究者は理屈に振り回されてしまって見落としがちになってしまうことがある…もはや職業病だな、これは…」 博士は自嘲気味に軽くため息をついた 「ある…感情…ですか?」 「ああ、それはマスターに対する……愛、恋愛感情だ」 「恋愛感情…」 「そう」 まぁ、そういう話はよく聞くから心当たりがないわけじゃない 確かに神姫達も女の子、恋する気持ちがあってもおかしくないと思う 「しかし、彼女らは自分の持つマスターへの思いを伝えられないことが多い。『自分は人ではない。マスターとは結ばれはしない』という現実があるから…彼女達は内に秘めた淡い思いに蓋を閉めるしかない…」 現実…か 「それ以外の理由でも人と同じ体を必要としている娘がいるかもしれない。私は開発時から彼女達、神姫と関わってきた中で…どうしてもそのことが頭の隅に引っかかっていたんだ。それがこの研究を始めたきっかけかな…」 そういえば博士はMSS開発において日常生活の方面を担当していた開発者メンバーの一人でもあったな… 「私は彼女らに人と変わらぬ体を与えようと考えた。しかし、それこそ神の領域。神を重んじる者から見ればなんとも罰当たりな事かもしれない。そんな哲学的な話を抜きにしても簡単な話ではないんだ…コレを見てくれ」 博士がデスクの上から資料を一枚抜き取ると俺の前のテーブルに置いた その資料に記載されているのは次の通り、 問題一、インターフェイス使用により人工兵器として扱われる可能性について 問題二、生殖機能搭載における社会の風俗的見解について 問題三、受胎機能搭載における子供への社会的偏見、差別について と書いてある… 博士は自分のデスクの後ろに回り、大きなガラス越しに外の景色を眺めながら続きを語り始めた 「そこにあるのは今の大きな課題、『インターフェイスが今の社会に及ぼす影響』の一部さ。これについて議論しているんだけど…なかなか思うようには進まないよ。第三者の意見も知りたい所なんだけど…どうにも極秘というのはまどろっこしいねぇ。まぁ、それだけの内容なんだけど…」 たしかに…これは一夕一朝で解決する問題ではなさそうだ… 「このような問題が山積みなのが現状さ。今の段階では私一人の主張。世の中、そんな奇麗事だけでは動かない事は理解しているつもりだ」 その背中はいつものオチャラけた博士ではなく、天才科学者フェレンツェ・カークランドの背中だった 「博士…」 「インターフェイスは私のような者の指揮でも数年かければ今のように運用自体には問題なく進めることが出来た。技術的には可能となった時代なんだよ…昔、私もMSSの開発に関与していたが、なぜ神姫はあのサイズなんだと思う?」 「確かに…あれほどのAIの搭載を可能としているならヒューマノイドの実現もありそうだけど…」 「理由その一、大きくなればそれほど開発コストは掛かってしまう。今でさえ神姫はけしてお手頃とは言えないしね。私達はまず彼女らを世の中に普及させる事を考えていたからその事は大きな問題となったんだ。理由その二、『小さい自分だけのパートナー』というコンセプトが前提であった。まったくもってその通りだね! これは神姫の萌え要素として欠かせない…って、語り出すと3時間は要するので止めておこう…」 一瞬、元の博士に戻りかけたな… 「他にも理由はあるんだが…AI市販化の先駆けとしてお手ごろなサイズで誕生したのがMSS、武装神姫。私の言う『壁』を『あえて残した』ことは正解だっただろう。今はまだその時期ではないと当時の私もそのことに関しては異論はなかった。けれど私は彼女らの開発者の一人として…一児の父親として…愛する人と結ばれる幸せを彼女らにも与えてあげたい…」 考えるべきことは考えている…というところ、流石だなこの人は… 「大変ですね…」 「いつの時代も神に挑むのが科学者さ。コレが私の愛の形だからね…」 「……俺も何か手伝えますか?」 「いや、明人君はノアール達といつものように生活してくれればいいよ。だけどこの事を少しだけ頭に入れておいてほしいんだ。あ、答えを出せというわけじゃないから気負わなくていいからね」 「はぁ…」 「そうそう、アキースはノアたちと今まで通りの甘々な生活を楽しめばいいんだよ」 「いや、別に甘々というわけじゃ…って、おわぁ!!」 何か普通に答えてしまうところだったが、博士とは違う高い声に俺は初めて自分の横にフィドヘル…いや、エリーがいたことに気づいた 「やぁ。やっと気づいたの?」 「お、おまえ何時から居たんだよ…」 「ついさっき。あ、父さんお茶持ってきたよ」 そういってテーブルに緑茶と醤油せんべいの盆を出すエリー 「おお、ありがとうエリー。流石、私の愛娘だね」 いつもの博士に戻っちまったな…… 「はいはい、その台詞聞き飽きたってば…」 ゴキゲンな父親と半ば呆れ気味の娘 どうでもいいけど緑茶とせんべえ……二人は和風な外国人だった 「というかエリー、その呼び方はどうにかならないか?」 「ん? 『アキース』?」 「そう、それは偽名なんだ。俺だってちゃんと直しただろ?」 「ん~君がそういうなら…じゃ、あ・き・ひ・と♡」 俺の名前を呼びながら腕に擦り寄ってくる 「…なんだ?」 「あれ? 照れないの?」 ミコでなれてるからな…とは言わない それよりも… 「そういうことはもう少し成長してから言うんだな…」 正直ミコより小さいぞ、お前 「なっ! し、失礼しちゃうなぁ~」 「事実だろ」 「僕は今からなの! すぐに香憐みたいなスタイル抜群の超美人になるんだから、プリティな僕は今が見納めかもしれないよ~?」 香憐ねぇみたいな? はっ、この調子じゃ4、5年はこのままだろ どっからその自信がくるんだか… 「ところで明人君、アルティ君とはどうなの?」 いきなり話題を変える博士 「へ? どうって…」 「元鞘に納まったんじゃないのかい?」 元鞘って…どこでそんな日本語覚えたんですかあなたは… 「アルとは…今はそういうんじゃないですよ…」 「でも嫌いになったから別れたんじゃないんだろ?」 ん~、確かにそうなんだが… 「そうなんですけど…実はここに来る前にアルと二人で話したんです。俺たちにとってこの五年間は大きくて…今すぐお互い元には戻れないって。だからまたゼロから始めようってことになったんです」 「すると…恋人の前の段階ってことかい?」 「ええ、まぁ…」 「そうか…(それじゃ、あの子たちにもまだチャンスはあるってことか…)」 「父さん?」 「い、いや、なんでもないよ」 俺は部屋にあった時計を見て席を立つ 「じゃ、あいつらが待ってると思いますんでそろそろ…」 「そうか…また遊びにでも来てくれ。エリー、外まで送ってあげなさい」 「わかった。それじゃいこうか、明人」 「ああ、それじゃお邪魔しました」 またしても俺の腕にしがみ付いて来たエリーと共に笑顔で手を振る博士に見送られながら俺たちは博士の書斎を後にしたのだった 追記 何故か今日は家に帰ると三人の機嫌が良かった ご機嫌要素その一、夕食はいつもより豪華だった(作ったのはもちろんノア ご機嫌要素その二、いつもよりミコがべたべたに甘えてきた気がする ご機嫌要素?その三、いつもはミコが俺に甘えると怒るユーナが何故か今日は寛大だった ……なんでだろうか? 続く メインページへ このページの訪問者 -
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注意:この話はエロ・グロ・神姫破壊が含まれた打ちっ放し短編です。それでもいいよとおっしゃられる方はどうぞ。 連続神姫ラジオ 浸食機械 ~ファタモルガナ~ 1:末路 「そーれ」 少女の軽快なかけ声と共に空を切る音が響く。続いてグチュっと言う音と 「ひぎゃぁう」 奇妙な叫び声があがった。 「大命中、やっぱり私はすごいね、マスター」 先ほどかけ声をあげた少女が振り返り僕に語りかける。少女と言っても彼女はニンゲンでは無かった。全長16センチの機械仕掛け、武装神姫と呼ばれるロボットである。彼女はカブトムシをモチーフにしたランサメント型と呼ばれるタイプだ。しかし彼女は製品版とはカラーリングが異なっている。武装はシルクのような光沢のある白に塗られている。素体も白をを基調として所々に黒や金が使われていた。腰まであろうかという髪は青みがかった黒で、リボンでポニーテールにまとめられていた。 「ねえねえ、次はどれをいってみようか?やっぱり派手にどばーって出る方がいいかな」 彼女の足下には彼女ほどのサイズのナイフや釘が乱雑に散らばっていた。彼女は今までこれを「的」に投げて刺す遊びをしていたのだ。ちなみに勝率はなかなかのものである。 「マヤ、しばらく待ってくれ。彼女と話がしたいから」 マヤと呼ばれた神姫は少し不満げに頬をふくらませたが、分かったと答えて手に持っていた千枚通しを床に置いた。僕はそれを見届けると机の上の瓶を手に「的」に近づいていった。 「気分はどう?お友達のことが心配でここに来たみたいだけど技量は考えた方がいいよ」 「的」は、壁に手足を埋め込まれ、服を破かれ半裸になった少女はこちらにおびえた様な目を向けるばかりで答える様子はない。白い張りのある肌に何カ所もナイフや釘が突き刺さりだいぶ出血しているのだから答える気力も無いのかもしれない。もっとも、背中に生命維持のためのチューブを何本もつないでいるのだ。そこから送られる薬品のおかげで、まあ、とりあえずすぐ死ぬことはないだろう。 「まあ、どうでもいいけど。そうそう、ここに連れてこられたとき自分の神姫、確かヴィクターちゃんだっけ?のことすごく心配してたねよね、だから連れてきてあげたよ」 僕の差し出した瓶の中身を見て彼女は目を見開く。瓶の中には彼女の神姫であるオールベルンパール型のヴィクターが入れられていた。武装を外され、薔薇シフォンに身を包んだ彼女は四肢を金の鎖で絡め取られ、足を大きく広げた姿で瓶の中に閉じ込められていた。 「ヴィクター!」 痛いだろうに無理矢理身ををよじり少女は自分の神姫の名前を叫ぶ。しかしヴィクターは目を閉じたまま動かない。 「スリープモードのままだったね、ごめんごめん」 僕はヴィクターに送っていた彼女を眠らせる電波を止める。すぐに彼女は目を覚ました。そして目の前に広がる自分のマスターの惨状を見てその表情が怒りに染まる。振り向いて僕を見つけると飛びかかろうとでもしたのだろうか、身をよじるが鎖にからめとられて動くことができない。それでも構うことなく僕の方に向かってこようとする。鎖を切れない身をよじり、殺してやると叫びながら。 「殺すんなら一撃でやってくれなきゃお断りだよ。もっともその機会はないだろうけどね」 叫び続ける彼女の入った瓶を机の上に置くとマヤがその周囲にカメラを設置していく。 「い、一体何する気?ヴィクターにはひどいことしないで」 残念だけどそれは無理な話だ。負けがかさんだ友達を救いにやってきた彼女を美馬坂は許すなと言った。お友達はお友達でひどい目に遭っているが彼女もまたひどい目にあう、彼女の神姫と一緒というのがまあ、救いか。 僕はヴィクターの入った瓶にポケットから取り出したものを入れる。それは蛇だった。神姫サイズにミニチュア化されたアナコンダが三匹。もちろん本物ではないが面白い機能として体内のカプセルを対象に射出できると言う機能がある。そのカプセルの中にはこれまたミニチュアの蛇が何匹も入っている。つまりこれを使えば神姫の受胎、産卵ショーが楽しめるというわけである。 蛇に巻き付かれおぞましさに顔をゆがめるヴィクター、それを見て必死に彼女の名を叫ぶ少女だがその声は突然の殴打により止んだ。部屋に男達が入ってきた、仮面をつけ、手には様々な器具を持っている。彼女を殴ったのはその男達の一人だ。恐怖におびえ、声も出せない彼女を男達が取り囲んだ・・・ 蛇に身をまさぐられるおぞましさを感じるヴィクターだったが主のピンチと僕への怒りから気丈な表情を向けてくる。しかし蛇の一匹が彼女の秘所に潜り込もうとするとさすがに表情が変わった。肝心なところはスカートで隠れているが本能的に恐怖を感じるのだろう。膝をもぞもぞさせるが蛇を防ぐことなどできない。 「いや、やめて!」 そうヴィクターが叫んだとき、部屋の壁が明るく光る。壁にはモニターが埋め込まれており彼女の痴態が大画面に表示される。呆然としたヴィクターが嫌々と首を振り鎖につながれた手足を振り回すが無駄なあがきだった。存分に彼女の腹上を満喫した蛇はやがてカプセルの射出を始める。ドレスの腹の部分がふくらみまるで妊婦のようになった。その頃になるとこちらの様子に気がついたのか男達の何名かがこちらにやってきて彼女の痴態を眺める。その股間は一様に怒張していた。 「良かったわね、あなたのこと見てみんな興奮してくれてるわよ。いっぱいかけてもらうといいわ」 マヤの言葉に美馬坂の根回しが効いているのか男達は彼女の痴態をおかずに自慰を始める。ヴィクターが自分の運命に気がつき妊娠しながらもそれはやめてくれと懇願するがそんな彼女の顔に早速白濁がぶちまけられる。射精は続き、ドレスはカウパーでべったりと肌に張り付き彼女の美しい胸や腹のラインを浮きだたせている。そんな彼女に興奮したのか注がれた精液は彼女の膝ほどになった。 うつむいて小声で殺してやるとつぶやく彼女にマヤが声をかけた。 「ねえ、さっき産み付けられた卵だけどさ、あれって温度が一定になったら孵化するのよね」 その声に瓶の口を向いた彼女の顔にこれ以上ないと言った絶望的な表情が浮かぶ。 「元気な赤ちゃん、産んでね」 「いやぁぁぁぁ!蛇のママになんかなりたくない、マスター、ねぇ助けて、マスターぁ!」 ついに弱音を吐き出した彼女だが無情にもその腹がもぞもぞと動き始めた。産まれるのだ。 「お願いやめて出てこないで、助けてマスター、助けてよ、うぁぁぁああああん」 泣きじゃくり、もがく彼女のスカートからゾルッという音と共に蛇が落ちてくる。ヴィクターが悲鳴を上げ、それを境にどぼどぼと蛇の子が生まれていく。その光景が引き金になったのかさらに男達がオーガズムに達し、滝のような精液が注がれていく。生まれた子蛇は母乳を求めてか早速彼女の胸に群がっていく。出産のショックで、精液の雨も小蛇たちの乳辱もほうけた顔で受け止めるヴィクター。そして腹があいたことを悟った二匹目の蛇が彼女の腹の中へと潜り込んでいった。 戻る
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おためし 大人テスト お題「なぜ空は青いのか」 海が青いから -- 名無しさん (2005-05-08 23 03 12) 名前 コメント てすとてすと! -- ノディ (2005-05-01 18 28 09) てすとてすとてすと!!! -- の・のでぇい!! (2005-05-01 18 28 32) てすーーーーーーと -- のののののでぃ (2005-05-01 18 30 21) ううううううううううううううう -- ぽ (2005-05-07 23 40 08) 名前 コメント 名前 コメント すべてのコメントを見る 選択肢 投票 選択肢1 (2) 選択肢2 (4) ... (0)
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ウサギのナミダ ACT 1-7 □ 翌日の日曜日、俺はやはり迷いながらも、ゲーセンに向かった。 井山と会って話をするためだ。 奴に会って話をしないことには、状況は何も進展しない。 ティアは渡せないが、雑誌にティアのあんな画像を載せることはやめさせなくてはならなかった。 井山と連絡を取ろうと思ったが、奴とは昨日のゲーセンで会ったのが初対面だった。 結局、俺はゲームセンターに行かなくては、井山と話も出来ないことに気が付いた。 念のため、ティアはおいてきた。 正直、ティアの落ち込みようは心配だった。一緒にいてやりたい。 だが、連れていって、またティアが傷つく姿を見るのも嫌だったし、井山に無理矢理奪い取られないとも限らない。 店の連中が来ていたら、それこそ無理矢理に奪われるだろう。 だから、俺一人で来ることにした。 俺はゲーセンに入ると、まっすぐに武装神姫のコーナーに向かう。 俺の姿を認めて、店内が少しざわめいた。 かまうものか。 店に来なければ、果たせない用事なのだから仕方がない。 大城が俺の姿に気がついて、すぐに寄ってきた。 「おい、遠野……しばらく来るなって……」 「井山は来ているか?」 大城の言葉を遮って尋ねる。 奴の名を聞いて、大城も理解したようだ。 「いや……まだ来ていないな……」 「昨日は来ていたか?」 「来た。お前が帰った後にな」 「じゃあ、今日も来るだろう……少し待つか」 「いや、待つって、お前よぅ……」 大城が口ごもる理由はよくわかっている。 そうでなくても、俺に向けられた視線は痛いほどに感じられる。 俺はよほど歓迎されていないらしい。 「井山とは、ゲーセンで会う以外に連絡の取りようがない。バトルするわけじゃないんだ。大目に見てもくれてもいいだろ」 「だけどよ……」 「どのツラ下げて、店に来た? 黒兎よ」 ハウリン・タイプの神姫を肩に乗せた男が、割り込んできた。 「ヘルハウンドの……」 「お前は出入り禁止のはずだろう」 「奴に……井山に話があって、」 「帰れよ。お前がいるのが、迷惑なんだ。そう言わないとわからないか?」 ヘルハウンドのマスターには取り付く島もない。 俺は急に悲しくなってきた。 ついこの間まで、バトルをしようと誘ってくれた奴だったのに。 こんなにすぐに、手のひら返したように、冷たい態度がとれるものなのか? あんたは、俺達の戦いの何を見てきたんだよ? 俺が一瞬、物思いに沈み、気がついたときには、バトルロンドのコーナーに来ているほとんどの客が俺に向かって罵声を投げていた。 「そうだ、帰れ帰れ!」 「お前なんかにバトルする資格はねぇ!」 「お前の汚れた神姫もだ!」 「迷惑なんだよなぁ、風俗の神姫の仲間と思われるのはさぁ」 「ていうか、ここに来ないで、風俗にでも行ってろよ」 「もう二度と来るな!」 こんな罵声を浴びせられる理由がわからない。 納得が行かない。 それでも、俺は叫び出したい言葉を飲み込んだ。 罵声を、甘んじて受けた。 そうしなければ、すべての道が閉ざされてしまうと思った。 拳を固く固く握りしめ、歯を食いしばって耐える。 俺は意志を振り絞って、固まってしまっていた両脚を引き抜くようにして、いまだ口汚く罵り続ける連中に背を向けた。 脇にいた大城に、 「奴が来たら、電話くれ。頼む」 「あ、あぁ……」 大城は頷いてくれたらしい。 今の一言を言うだけでも、重い口を懸命に開く必要があった。 俺はやっとのことで、ゆっくりと店の出口へと歩み始めた。 聞こえた言葉。 「あんな精液まみれのエロ神姫、使う気が知れねぇよなぁ!」 どっと、受ける気配。 俺の中でなにかが。 切れる、音がした。 怒りとか、悲しみとか、そう言う気持ちを踏みつぶして通り過ぎた、行きすぎた負の感情。 それが、心の奥から、どばっと噴出した。 真っ黒い感情は、タールのように粘液質なのに、あっと言う間に俺の心を塗りつぶした。 俺は身を翻すと、先ほどの言葉を発した一団に飛び込もうとした、らしい。 それが未遂で終わったのは、大慌てで後ろから追いすがった大城が、羽交い締めにしてくれたからだった。 「はなせっ! 大城、はなせぇっ!!」 「バカ、やめろ、遠野! やめろって!!」 押さえてくれた大城の腕から逃れようともがいた。 しかし、頭一つ分背が高くて体格もいい大城に、かなうはずもない。 身体はあきらめたが、心は前に出ている。 俺は今にも飛びかかりそうになりながら、先ほど笑った連中を睨みつけた。 視線で人を殴れたらいいと、本気で思った。 「ふざけるなよ……!!」 低く暗く、震え、かすれた声。呪いを吐き出しているような声。 「神姫は……! 神姫はマスターを選べないだろうが!! 神姫に身体売らせて金を稼いでいる奴も、金で神姫を汚して悦んでいる連中も、みんな人間じゃないか!! マスターが命令すれば、神姫は嫌でも、どんなことでもしなくちゃならない。 神姫に何の罪がある!? 何度も何度も心を引き裂かれるような思いをして……傷ついているのは神姫だ! それなのになんだよ!? 追い打ちをかけるみたいに、勢いで罵声を浴びせて、おもしろ半分にあざ笑って…… お前ら、それでも人間か!? それが人間のすることかっ!!!」 口にしてはじめてわかった。 俺が許せなかったのは、俺たちがバトルできなくなることでも、俺が痛い思いをすることでもない。 ティアを無神経に傷つける行為が許せなかったんだ。 その場にいた誰もが口をつぐんでいた。 俺はさらに言葉を重ねたかったが、うまく口から出てこない。 心の底からマグマが吹き出すように煮え立っているのに、表層の意識は、いまの言葉を放ったところで、奇妙に冷静になっていた。 そうだ。こんな連中は人間じゃない。 ならば、ここは俺のいる場所じゃない。 俺が異物であるのも当然だ。 俺の身体から急速に力が抜けた。 大城の腕を振り払い、うつむきながら立つ。 「もう、二度と来ない」 吐き捨てるように言って、俺はきびすを返した。 さっきまで脚を動かすのに苦労したのが嘘のようだ。 俺はしっかりとした足取りで、足早に出口へと向かった。 一刻も早く、この店から出たかった。 未練さえ、欠片も残っていない。 もうこの店でバトルする事もない、という感傷さえ思い浮かばず、俺は自らの意志で、この店との関わりを切り捨てた。 それで、自らの夢が絶たれるのだとしても。 俺が店から出ると、三人の男がこちらに向かってくる姿が目に入った。 冷えていた俺の心の水面が瞬時に沸騰した。 俺はその男たちに駆け寄ると、真ん中の太った男の胸ぐらを掴みあげた。 「井山……っ!」 「おや、君は……ひゃはっ、どうしたんだい? そんなに怖い顔しちゃって」 おどけたような口調で言う。 からかっているのか。 こっちが完全に喧嘩腰だというのに、奴は全く動じていない。 「貴様……どういうつもりだ……」 「ん? なにが?」 「ティアの……あんな姿の画像を雑誌に載せるようにし向けたのは、貴様だろうっ……!」 「ああ、君も見てくれたんだ? よく撮れてただろ? アケミちゃんのエロエロな格好がさぁ」 こいつは自分がティアの画像を提供したことを否定さえしない。 まったく悪びれていないのだ。 俺は、井山の胸ぐらを掴む手に、さらに力を込めた。 井山の取り巻きの二人は、最初は俺の出現に驚いていたようだったが、井山が俺に絡まれていても、止めようともせずにニヤニヤ笑っているだけだった。 「よくも……自分がオーナーになりたい神姫の……あんな画像を……公表できるもんだな……」 「あんな画像も何も……アケミちゃんは、はじめからああいう神姫だろ?」 「貴様はっ……! 神姫の気持ちを考えたことがあるのかっ!?」 「神姫の気持ち?」 井山はさも不思議そうに首を傾げ、そして、こうのたまった。 「そんなの、考えるわけないじゃん、おもちゃの気持ちなんてさぁ! そんなこと考える方がおかしいんじゃないの?」 「な……」 「アケミちゃんは、ああいうことをされるために生まれてきた神姫なんだよ。そういう運命なんだよ。だから、無理矢理バトルロンドで戦わされるより、ボクに奉仕している方がよっぽど似合ってるよ」 「なにが……運命だっ……!」 俺は頭がおかしくなりそうだった。 俺が今まで出会ってきた武装神姫のオーナーたちは、程度の差こそあったが、誰もが神姫をパートナーとして大切にしていた。 だが、こいつは何だ。 平気な顔で神姫にひどいことができる。そして、神姫はそうされることが当然だなんて……そんな奴が神姫のオーナーであっていいのか。 「だからさぁ、さっさとアケミちゃんを譲りなよ」 「なにを……」 「だって君、いまバトルロンドできないだろう? アケミちゃんみたいな神姫じゃ、誰もバトルしたくないよね」 「……」 「君の好きな神姫を買って、アケミちゃんと交換してあげるよ。そしたら、君はバトルロンドにまた参加できる。ボクはアケミちゃんとイイコトできる。それが一番いいんじゃない?」 その話に一瞬でも心が揺れなかったと言えば、嘘になる。 このままじゃ、俺達は前にも後ろにも進めない。 だが、しかし。 「貴様……ティアを……手に入れたらどうするつもりだって……?」 「決まってるじゃないか。可愛がるんだよ! 雑誌の記事みたいなことをしてさ、毎日毎日、こってりとね。ひゃはははは!」 「そんなことをしたら、ティアは苦しむばかりじゃないか!」 「あったりまえじゃないか。アケミちゃんはさぁ、苦しんでる姿が一番可愛いんだよ。そういう神姫なんだよ、こってり可愛がられるために、生まれてきたのさ、きっと」 話が通じていない。 俺とこいつの話は、根本から食い違っている。 神姫が苦しむ姿が、一番可愛いだと……? 「……ふざけるなっ!」 俺は井山を突き飛ばした 俺の乱暴な行為も意に解せず、奴は余裕の態度を崩さない。 「貴様の様な奴に……ティアを渡せるもんかよ!!」 「ふふん、そう言っていられるのも今のうちさ」 「……なにを」 「あの雑誌の編集者がさぁ、ボクが持ち込んだ企画、気に入ちゃってねぇ。 また、今週発売の号で、載るよ。今度はもっとエロいのがね!」 なんだと。 こいつは、この間のだけでは飽きたらず、まだティアを貶めようと言うのか。 「やめろ……これ以上、ティアを傷つけるな、苦しめるなっ!!」 「やだね。これからもまだまだ載るよ? そうしたらそのうち、アケミちゃんでバトロンどころか、連れて歩くこともできなくなるよね! ひゃはははは!」 「そんなの、お前だって同じだろ」 「ボクはいいんだよ。だって、アケミちゃんを外になんか連れ出さないで、ずっとボクの部屋で、こってりと可愛がるんだからね」 俺の脳裏に、ティアの顔が思い浮かんだ。 あの時。はじめて公園に連れていったあの日。 ティアはその広さ、明るさに驚いていた。 はじめてレッグパーツを装着して、公園で走ったとき。 ティアはとても嬉しそうに笑っていた。 笑っていたんだ。 それを奪われるのか。 こいつの元に行ったら、ティアは二度と外の風を感じることもなく、薄暗い部屋の中で、ただ怯え、苦しみ、泣き叫び、心が磨耗していくだけの日々を送るっていうのか。 そんなことは、どうしたって……許せるはずがない! 「渡さない……どんなことがあっても、ティアは決して渡さない!」 「いいや、いずれきっと、君はボクに泣きついて来るさ。だってバトルもできなきゃ、外に連れ出すこともできなくなるんだからね! ひゃははは!!」 井山の高笑いに、俺はせめて睨みつけることで、反抗するしかなかった。 正直、奴の話には現実味があった。 ティアを俺の神姫として活動する方法を、今の俺にはまったく思いつかない。 俺はまた、拳を強く握りしめ、耐えるほかにはなかった。 「そうそうこれ……」 井山はポケットから一枚の紙片を取り出し、俺に差し出した。 「ボクの連絡先だよ。アケミちゃんの件なら、いつでも連絡していいからさぁ」 俺の目の前にいる三人が大笑いした。 俺は……どうすることもできなかった。 無力だった。 この連中のいやらしい笑い声すら止めることはかなわない。 せめてできることは、井山が差し出した名刺をたたき落とし、走ってその場から逃げ出すことくらいだった。 後ろから井山が何事か言ったようだったが、よく聞き取れなかった。 情けなかった。悔しくて、頭に来てもいたが、結局何もできない自分が一番腹立たしい。 あんな奴に好き放題言わせて、それでも何もできずに見ているしかない俺は……なんと情けない男なのだろう。 裏通りの路地。 俺はいつしか立ち止まっていた。 「お、お、おおおおおおぉぉっ!!」 吠えていた。 負け犬の遠吠えだ。 吠えながら俺は、路地の薄汚れた壁に、拳を叩きつけた。何度も何度も、力一杯叩きつけた。 やり場のない負の感情を、壁に向かってぶつけていた。 なんだか、殴りつけている壁に赤い染みが出来はじめた。 叩いている右の拳の感覚がない。 時々、手の指あたりから、鈍く嫌な音が聞こえた。 だが、無視した。 俺は壁を叩くのをやめなかった。 ただひたすらに、その行為に没頭していた。 いつまでそうしていただろう。 「っておい!? 遠野!! おまえ、ちょ……なにやってんだ!!」 野太い大声が俺を呼ぶ。 そして、ひたすらに動かしていた右腕を、力任せに掴んできた。 「はなせ!! 大城っ!」 「バカ!! 手が血塗れじゃねぇか!! いてえんだろうが!」 「こんな痛み、ティアが受けた痛みと比べようがないっ!!」 それでも大城は、俺の右腕をがっちりと掴んで、放さないでいてくれた。 「遠野、お前……」 「それでも……おれは……ティアの痛みを分かちあってやることさえ出来ない……あいつの涙を、止めてやることさえ出来ない……おれは……おれは……っ!!」 もう言葉にならなかった。 俺は狂ったように慟哭した。 次へ> トップページに戻る